2009年04月16日

わらうひまわり

逃げ遅れた白い月が残る早朝。
漠然とした不安感を背負ってトボトボと畦道を歩いていると
一本の向日葵に遭遇した。


向日葵があまりにも爽やかに力強くにこやかに微笑むので



折った。



背負っていた不安感は腐った桃の匂いを発し


落ちた向日葵はケタケタと嗤った。


逃げ遅れた白い月は雪の様に溶けた。


溶けた月はつららとなって、私の右心房を刺す。


私は泣いた。
声を漏らさぬように
必死に両の掌で口を押さえて


喘いで


泣いた。


月のつららが痛かったからではない。
月のつららが痛かったからではけしてない。


やがて私の影は濃くなるであろう。


だから


泣いたのだ。



  

2009年03月28日

らんちう

キキョウの花弁を思わせる淡い蒼色の縁取りをした直径23センチメートルのガラスの金魚鉢の中を一匹のらんちうが泳いでいる。
赤みの強いオレンジ色と光沢のある滑らかな白色の二つの配色が鮮やかなそのらんちうは、金魚鉢の中を所狭しと遊泳している。
静止しているのかと思わせるようにユックリと鰭を動かしている、かと思えば突然何者かから逃げる様に素早く身を移す。
金魚鉢の有限の世界の縦横を無尽に潜水しているらんちうを、耕介は黙々と見ていた。
四歳になる耕介は、金魚鉢の曲面を横切る度に、頭が大きくなったり、腹が細くなったり、尾が二重に見えたりするらんちうを黙々と見ながら考えていた。


このらんちうは何を想い泳ぎ回っているのだろうか。
優雅な舞を披露しているようにも見てとれるし、囚われの我が身を哀れもがき苦しんでいる様にも見える。
おそらくこのらんちうは他の金魚を知らずに一生を終えるだろう。
自分はどうだろうか。
母親の庇護の下でしか生きては行けない。
母親という金魚鉢から抜け出る事は許されない。
しかし、いずれは時がその金魚鉢から開放してくれる事を耕介は知っている。
だが、このらんちうはどうであろう。
今日も明日も明後日も、  

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2009年02月07日

黒い経験 参

今時珍しい艶のある黒曜石の様な長い髪。
同様に松煙墨の様な黒く大きな瞳。
それとは対照的に青女の様な白い絹肌。


おおよそ殺人とは無縁の人生を歩む類の人種であろうと思われる清楚な女性。


それが、妊婦を殺害してその膨れ上がった腹の中から生きたままの胎児を取り出した殺人者。
であると云う事実を、雨宮辰二郎は冷静に受け止めていた。
二十年以上も犯罪者の精神を鑑定してきた者にとって、霞原蝶々が引き起こした事件も数多ある事例の一つになるに過ぎないのだ。


「…あなたを信じてもいいのね。私が何を言っても絶対に信じてくれるって」
「ああ、勿論だよ…。そうやく話す気になったんだね」
「ええ」
「ありがとう。じゃあ、聞かせてくれ。どうして篠山瞳さんを?」
殺したのだ。


「天命」
「てんめい?」
「そう。天命」
「……何か、聞こえて来た。って事かい?神の声の様な」
雨宮辰二郎の言葉を霞原蝶々は、ふふふと笑いで止めた。
「違うわ。私の事を気違いだと思っているの?」
「いや」
「あなたはこの世に何をしに生まれてきたの?」


雨宮辰二郎はちらりと霞原蝶々の上身書に目を下ろした。
たしか、特定の宗教団体に入っていたと云う  

Posted by koujun at 03:24Comments(2)TrackBack(0)小説

2009年02月05日

その日は雪の降る寒い夜だった。




ローイが産まれた日は大雪だった。
ローイを雪の寒さから守ったのは母の温もりでは無く使い古された薄い毛布一枚だった。
ローイを産むと母は休む間も無く仕事に復帰した。
一回十ルクセル銀貨で男とベットで寝る事が母の仕事だった。




ジムニーはその三年後に産まれた。
母は麻薬中毒者で厚正施設内でジムニーを産んだ。
ジムニーは母が麻薬中毒厚正施設から退院するまで、聖アウグストス修道院に預けられた。
父は窃盗の罪で服役中だった。




ローイは六歳になってもひどく痩せていたので幼く見えた。
母が家に男を連れ込むと、汚れた枕と薄い毛布を持って家の外へ出て過ごした。
男は一時間で帰る時もあれば、明け方まで帰らない時もあった。
この頃、母は一回六ルクセル銀貨で春を売っていた。




ジムニーの母が麻薬中毒更正施設内で死亡したと聞かされたのは、ジムニーが十一歳の時だった。
しかし、聖アウグストス修道院の修道女は、ジムニーの母が頭を壁に打ちつけて自殺をしたと云う事までは言わなかった。




ローイが十五歳になった時、突然、父が現れた。
父は窃盗罪での服役を終え出所し、ローイの母が身を売って蓄えた僅かな金を横取りしようとした。
父と母が口論になり口論が暴力を生み暴力は母の死を生んだ。
母が殺されるのをローイはただ黙って見ていた。
そして父の手がローイの首筋におよんだ時、ローイはナイフで父の左目を刺して逃げた。
逃げて、鼠達が巣くう薄暗い湿った路地でうずくまり母が殺された事を思い出した時、ローイは少しだけ笑った。




ジムニーが十二歳の時、突然、父が現れた。
父は窃盗罪での服役を終え出所し、聖アウグストス修道院から娘を引き取り、自分で育てる事を申し出たが修道院はその申し出を断った。
それは、この男がとてもジムニーを育てる事が出来そうに無かったからだった。
しかし、ジムニーは父の元へ行く事を決意し、聖アウグストス修道院を出た。
父の左目には大きな傷があった。




ローイは、窃盗を繰り返して食い繋いでいた。
金が有るときは宿に泊まり、無ければ路地で寝た。
金が有るときは宿に泊まり娼婦を抱き、無ければ路地で女を犯した。




ジムニーの父はジムニーに春を売らせた。
稼いだ金は全て父の酒代に変わった。
ジムニーの最初の客は父だった。




ローイは成り立ての若い娼婦を路地に誘い犯して殺した。
そして娼婦から十四ルクセル銀貨を奪った。




ジムニーは娼婦になって五人目の客に路地で犯され殺された。
そして十四ルクセル銀貨を奪われた。





その日は雪の降る寒い夜だった。
  

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2009年01月01日

明けましておめでとう御座います。

年が明けました。

おめでとう御座います。

今まで書いた作品で個人的に好きなものを五つ選んでみました。

今年はもう少し書くペースを上げよ。
第一位『空飛ぶマリー』

第二位『嗤う者』

第三位『遺書』

第四位『赤い花』

第五位『思い出はゴミ箱に』

  

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2008年12月12日

ピロ美ちゃん

ピロ美 「ねえアキラ君」


アキラ 「なぁに」


ピロ美 「本ばかり読んで、ホントに本が好きなのね」


アキラ 「ごめんね、ピロ美ちゃん。もう本は読まないよ」


ピロ美 「ピロ美と本、どっちが好き?」


アキラ 「ピロ美ちゃん」


ピロ美 「ホント!じゃあ、本が沢山あってピロ美が居ない無人島と、本が一冊も無
     いけどピロ美が沢山いる無人島と、どっちがいい?」


アキラ 「ピロ美ちゃんが沢山いる無人島がいい」


ピロ美 「フケツよ―――!」


アキラ 「どうしたの!ピロ美ちゃん!?」


ピロ美 「不潔よ!他のピロ美も好きなのね!ピロ美だったら誰だっていいの!?
     沢山のピロ美達とナニをしようとしているの!!私は何?その他大勢の
     ピロ美の中の一人?」


アキラ 「え?え?」


ピロ美 「ピロ美だけが好きだって・・・好きだって言ったのにぃぃぃ!」


   ピロ美、叫びながら走り出す。


アキラ 「ピロ美ちゃ~~~ん!!」


  

Posted by koujun at 19:41TrackBack(0)コント

2008年12月08日

なめくじ

こんなセックスをしたい。


静かに
情熱的に
体中から溢れる愛液を絡めて
肌と肌を滑らせて


この二人の蛞蝓のように
危険を顧みず
空中に身を投げて
堕ちるように果ててしまいたい


あの人と

そんなセックスをしたい。


[youtube動画]
  

Posted by koujun at 02:29TrackBack(0)雑記

2008年07月09日

黒い経験 ~弐~

前代未聞のテレビタレントによる猟奇的殺人事件の報道は加速を増した。
霞原蝶々は何故、妊婦を殺害したのか。
憶測が憶測を呼んだ。
しかし、どれも推測の域を出るものは無かった。


曰く、殺害された篠山瞳が身篭っていた子供は、実は霞原蝶々が付き合っていた男性の子供で、三角関係の縺れによる殺害である。


曰く、霞原蝶々と篠山瞳はレズビアンの関係で、恋人の篠山瞳が霞原蝶々を裏切って身篭った為の嫉妬による殺害である。


曰く、タレントである為に表立っての出産が出来ない霞原蝶々の子供を、篠山瞳が『代理出産』しようとしていたところ、突然、篠山瞳が親権を主張し、それが認められなければ事実を世間に口外する事を仄めかした末の殺害である云々。


しかし、どれも事実とは程遠い作り話しに過ぎなかった。
警察の調べでは、篠原蝶々と篠山瞳の関係に接点を見つけ出す事は出来なかった。


動機なき殺人。


「あなたは他の人とは違うわね。目を見れば解るわ。共感は出来なくても理解はしてくれそう。少なくとも理解しようと努力はしてくれそうね」
「勿論。僕は君の唯一の理解者だよ」
精神鑑定官、雨宮辰二郎は安心感のある心地よい低音で答えた。


三十年以上も犯罪者の心の真意を見貫いてきた雨宮の眼光は、霞原喋々の瞳孔を捕らえて離さなかった。
鷹のように鋭く些細な所作をも見抜く雨宮の眼光は、どこか狸を思わせる間の抜けたつぶらな瞳に奥に隠れている。
さらに、優しい低音の声色に加え、殺気を漏らさないその瞳が相手の油断を誘うのだ。


霞原蝶蝶と雨宮辰二郎しか居ない、狭い取調べ室に短い沈黙が漂った。


「…あなたを信じてもいいのね。私が何を言っても絶対に信じてくれるって」
「ああ、勿論だよ」


雨宮は柔和な笑みを浮かべた。
  

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2008年05月05日

黒い経験 ~壱~

「あなたは他の人とは違うわね。目を見れば解るわ。共感は出来なくても理解はしてくれそう。少なくとも理解しようと努力はしてくれそうね」
霞原蝶々、本名水口のり絵は紋白蝶のような可愛らしい唇を羽ばたかせてそう言った。


その日、霞原蝶々は血にまみれていた。
血にまみれながら本下宮町3丁目を虚ろに徘徊している所を警察に連行された。
2002年6月27日午前3時12分の事だった。
その時、喋々は右手に小さな肉の塊をぶら下げていた。
一月後に生まれてくるべき胎児の頭部を、鷲摑んでいたのだ。


グラビアアイドル霞原蝶々、妊婦を殺害!


連日連夜各メディアは、そのショッキングな事件を報道し、視聴者の脳細胞に刺激的満足感を与え続けた。


殺害された篠山瞳は臨月間近で、事件さえ起きなければ翌月にはシングルマザーになっていた。
父親のわからない子供を身篭ったのだ。
しかし、彼女の両親はその事実を真摯に受け止め、生まれてくる新しい命に無償の愛情を注ぐ事を誓った。
その矢先の出来事だった。


篠山瞳はあまり人に誇れるような人生は歩んでは来なかった。
警察が霞原喋々と篠山瞳の事件上の関係を捜査していく度に、篠山瞳の遺族は両耳を塞ぎ両目をきつく閉じたくなる思いに駆られた。
何故ならば、篠山瞳の過去の汚点が幾つも幾つも滴り落ちてきたからだ。
篠山瞳の遺族は、その汚れた水滴の音を聞かざるを得なかった。
売春。
薬物。
二度の堕胎手術…。


一方、霞原蝶々の人生は篠山瞳とは対照的な華やかだった。
株式会社、『ミズクチ硝子』の社長令嬢としてこの世に生を受け、父親のコネクションを使いアルバイト感覚で芸能界に入った。
しかし、決して才能が無いわけではなかった。
得意な英語とハングル語を巧に操り、不自然な程に丁寧な言葉使いで日本刀のような切れ味の毒舌を発する。
しかも愛くるしい笑顔で斬られた心を優しく癒す術まで心得ている。
霞原喋々は瞬く間に知性と美貌を兼ね備えたトップアイドルになったのだ。


そのトップアイドルの初のスキャンダルが、殺人事件だったのである。

  

Posted by koujun at 20:21TrackBack(0)小説

2008年04月06日

椿が落ちる夜 

 椿が落ちる夜       第一稿
                                 作 我那覇孝淳
   

   夜の公園。
   舞台中央、女が夜空を見上げてベンチに座っている。
   男が現れる。
   男、ベンチに座っている女に話しかける。



男   …ごめん。早かったね


   女、見上げている顔を正面に戻す。   


男   あ、すいません…


   男、どうやら人違いだったらしく、気まずそうにする。


女   綺麗ですね
男   え?
女   ほら、天の川
男   ああ
女   どうぞ。(端に寄る)待ち合わせ。でしょ?
男   ええ
女   誰も来てませんよ。私、ずっとここにいましたから
男   そう……ですか。


   男、ベンチに座る。


女   似てました?
男   え?
女   私。待ち合わせの人に。さっき声をかけたから
男   ああ、すいません。ええ、少し………


   


男   あの
女   はい
男   いつから、ここに?
女   黄昏時から
男   たそがれ?
女   私、夕方が一番好きなんです。一日の中で。青色から藍色に変わる間の
     あの夕焼けが。少しずつと世界が熔けて行くようで。死にたくなってしまう
     くらい好きなんです。夕焼けを見ていたらいつの間にかこんな時間に


   沈黙。
   男、時計を見る。



女   来ませんよ。彼女
男   え?
女   ごめんなさい、そんな気がして…ごめんなさいね。私、思ったことをすぐ
     口にしてしまうんです
男   どうして…どうして来ないって
女   ……なんとなく
男   なんとなく?
女   なんとなくそう思っただけです。気にしないでください


   間。


女   もったいないですよね
男   何が、です
女   この高台。こんなに見晴らしがいいのに誰もこない
男   そうですね
女   どうしてですかね
男   いつでも来れるから。じゃないですか?
女   いつでも
男   はい、いつでも、来ようこうと思えば来れるから
女   不思議ですね。いつでもいける所は結局行かずに、なかなか行けない所
     は無理してでも行こうとする
男   そうですね。不思議ですね。………まだ、ここにいます?
女   今日はあたたかいから、まだゆっくりしていこうかと思ってます
男   ……ひとつ頼まれてくれませんか
女   ……いいですよ
男   実は僕、今日ここで、彼女と別れ話するつもりなんです。……邪魔の入ら
     ないところでじっくりと話しようと思って。今日ここに呼び出したんです
女   …そうですか。それで私に何を?
男   その…。僕の…、僕の新しい彼女の振りをしてくれませんか
女   あなたの?
男   はい
女   でも、邪魔の入らない所で、二人だけで話すんじゃあ
男   そう思ってたんですけど、決定的な何かがあった方がいいんじゃないかっ
     て思って。今思いついたんですけど
女   決定的な…。他に好きな人が出来た。っていう?
男   はい
女   彼女を傷つけてでも、別れたいんですか?


   間。


男   努力は…努力はしましたよ。傷つけないように。でも、彼女は聞き入れて
     はくれなかった。僕の気持ちはもう…離れてしまっているのに
女   ………
男   お願いできますか。
女   ……はい。でも、恋人同士なら、名前を知らないといけませんね
男   そうですね。お名前、よろしいですか?
女   つばきです
男   つばき?
女   どうしました?
男   …いえ
女   じゃあ、あなたの事、歩って呼びますね
男   え
女   どうしました?
男   どうして僕の名前
女   さっき言ったじゃないですか?
男   さっき?
女   ええ、言いましたよ、ご自分で
男   そう……ですか
女   彼女の名前は?
男   ああ…あの…つばき、です
女   あら、私と一緒
男   ええ
女   偶然ですね。こんな偶然ってあるのかしら。そう。つばきさんて言うの、あ
     なたの彼女。じゃあ、私の名前を変えなくちゃいけないわね


   間。


女   姉がね、姉がつけた名前なの、私の名前。私が生まれた時に、庭に椿の
     花が咲き乱れていて、それを見た姉がね、私につばきって 
男   そうですか
女   つばきさんは、あ、貴方の彼女の。お姉さんはいるのかしら
男   たしか一人。でも、亡くなってしまったみたいですけど
女   そう…ですか…
男   どうかしました?
女   私の姉も、亡くなってしまったの。こんな偶然ってあるんですね。ますます
     逢いたくなったわ。つばきさんに


   間。
   男、腕時計を見る。



女   (夜空を見上げて)綺麗ですね。
男   ええ。ちょっと、冷えてきましたね。寒くないですか。
女   いいえ
男   そうですか
女   どんな人です?つばきさんって
男   どんな人って…
女   彼女が来るまで、彼女の話を聞かせて下さい。同じ名前だし、気になるわ
男   んーーー
女   どうして亡くなったんですか?つばきさんのお姉さん
男   さぁ。病気か何かか。詳しくは。つばきは…彼女はそう言う事は話したがら
     なかったから
女   そうですか
男   (腕時計を見て)遅いな…
女   泣いたらどうします?
男   泣いたら?
女   あたなと私を見て、つばきさんショックで泣いてしまうかも 
男   泣いても…泣いても最後まできちんと話はします。ちゃんと納得するまで
女   死んでしまったら?悲しみのあまり、そこの柵を越えて(前方を指す)飛び
     降りてしまったら?
男   どういてそういう事を言うんです
女   私の姉は、飛び降りたんですよ。飛び降りて死んだんです。夕日に染まっ
     たビルの屋上から。愛した男に裏切られて
男   別に、僕は裏切ったわけじゃあ
女   歩!
男   (少し驚いて)はい
女   …彼女も、そんな風に呼ぶんですか?
男   はい…
女   どうしました
男   いや…今の言い方、つばきにそっくりだったから…


  男、しばらく女を見つめて。   


男   似てます。つばきによく似ている
女   (ほくそ笑んで)そうですか。………どうして嫌いになったんです
男   嫌いになったわけじゃあ
女   好きじゃなくなった
男   ………そうかも知れません
女   それじゃあ、つばきはどうしたらいいかわからないわね
男   ……
女   いっその事、嫌いになってくれた方がいいのに。『好きじゃ無くなった』…
     あなた、ある日突然、つばきにそう言ったのよね。少しずつ少しずつ好き
     じゃ無くなっていったのに、あなたはそれを隠して、好きなフリを続けて、
     愛しているフリを続けて、
男   つばき、さん?
女   この人になら全てを委ねてもいいと思った時に、あなたはつばきに『好き
     じゃ無くなった』って言った。突然。なんの前ぶりも無く
男   何を…
女   可哀想なつばき…。なんでも私の真似をして…。つばきはあなたを待って
     いました。真っ赤な夕日を見ながらここに座って。あの子は耐えられなか
     った。あなたが来るまで、ここに座って。一人で、一人で、一人であなた
     を待っていたの。傷つく為にここに座って。
男   あなたは一体…
女   妹は、そこの手すりを飛び越えました
男   !
女   黄昏の中にとけ入る様に飛び込んで
 

  男、立ち上がって高台から下をみる。


男   そんな…
女   つばきは、あなたの名前を叫んで飛び降りたのよ。歩さん。あなたの名前
     を叫んで…黄昏の中に…溶けて入ったのよ… 
  
   男、振り返ってベンチを見る。
   女の姿は無い。
  
                           
                                            完



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Posted by koujun at 09:25TrackBack(0)戯曲

2008年04月03日

探し物



























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Posted by koujun at 18:47TrackBack(0)コント

2008年02月15日

『雨』

『雨


暗雲たる運行は陰鬱なる余韻
鵺の秘めたる悲鳴に
明朗な我も滅入ろう


嗚呼、曇天はいずれ破れ
粘り気の雨が降る
粘り気の雨に濡れて
涙も雨情と化す


栄江田小学校5年4組  籐野 満』



何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。
これが、小学生の詩か?
『雨』
国語の時間に一樹が生徒に与えた詩のタイトルである。
書いたのは籐野満だ。
読書家ではある。
学級委員長でもある。
そして何よりも生意気なガキである。
大人の言葉尻に微細な語彙があれば、それを挙げつくらって嘲笑う。
大体、『鵺の秘めたる悲鳴に』ってなんだよ。
鵺って妖怪じゃないか。
幾らなんでも色を付け過ぎている。
詩と云うのは本来、思考を自由に羽ばたかせて書くものだから、表現は自由であるべきだ。
であるべきではあるが、日頃の憂さもあって一樹は満に忠告した。
「鵺っていうのは架空の生き物だから、ここは普通の動物でもいいんじゃないかな」
「鵺っていうのは、トラツグミの事ですよ。知らないんですか?」
思い出すな一樹!
一樹は心中で呟いた。
収まっていた怒りが沸々としてくる。
ひと呼吸おいて、一樹は別の生徒の作文用紙をとった。



『雨


あめがぽつぽつふってまつ


そしてザーザーになりました。
そして雨がふりました
そして僕はうれしいかったです


雨はかみなり様のおしっこ


ばっちいな


栄江田小学校5年4組 あんざい しげと』



これが、小学5年生の詩か?
なぜ、ばっちいのに嬉しいのだ。
何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。





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Posted by koujun at 10:19TrackBack(0)小説

2008年02月14日

空飛ぶマリー。

趣味で小説を書いていると、何を書いてもいいという錯覚に陥ってしまう。
実際、プロじゃないんだから何を書いてもいいんだけどね。
例えば、普通なら一、二行で書き終わってしまう描写をねちねちと書いたらどうなるんだろう。
何でも無いごく普通の日常の一瞬を、こと細かに書いてみる。
ごくごく普通の日常を、スケッチ感覚で。




美しい自慢の髪もバッサリと短く切られていた。
か細い両の腕は後ろ手にきつく縛られている。
身窄らしい貧素な服を着ていても、彼女は堂々と前方に聳え立つギロチン台を見据えて歩いた。
途中、死刑執行官の足を踏みつけた彼女は、己の人生で最後の言葉を発した。
「あら、ごめんなさいね。わざとじゃないのよ。わざとじゃ」
1793年、10月16日。
パリの中心部、チュイルリー公園とシャンゼリゼ通りに挟まれ、後にコンコルド広場と呼ばれるようになるこの場所で、マリー・アントワネット・ジョセファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・ドートリッシュは斬首された。


ギロチン台の下まで来ると、マリーは膝を折って首添台に首を置こうとした。
「待て」
先ほど足を踏まれた死刑執行官が制する。
執行官はマリーを捕らえている執行人に何やら耳打った。
執行人は顔に一瞬の戸惑いを見せた。
しかし、執行官は残忍な光を目に宿し、やれ、と顎で命じた。


通常、ギロチンはうなじを天に向け、囚人は地面を見る格好で行われる。
ところが、マリーは咽喉が天を向く形、つまりギロチンの刃が見えるような不自然な格好で首を固定された。
落ちてくる刃が良く見えるように。
マリーの死に様を見ようと集まっていた野次馬の民衆は、遠巻きにその演出にどよめいた。
非難するものは誰も居ない。
それほどまでにマリーは民衆に疎まれていた。
思わず、マリーの口元に自嘲の笑みが浮かんだ。
マリーは何も考えないようにしていた。
ただ、青い空だけを見ていた。
その青い空に一瞬、鳥が飛び過ぎった。
あれは、鳩かしら。鷹かしら。


執行官の号令でギロチンの重い刃を支えていた太い縄が切断された。
分厚い刃は、自重でぐんぐんと地面に引き寄せられる。
刃に括りつけられていた縄は、首を切られた蛇の様に暴れて空に舞った。
すぐさま刃はマリーの柔らかい咽喉を捉えた。
そしてそのまま広頚筋を引き裂いた。
この時点ではまだ出血はしていない。
続いて、甲状舌骨筋を分断して頚動脈と頚静脈、そして背骨の中を通っている椎骨動脈が切断された瞬間、頚動脈と椎骨動脈の二本の動脈から鮮血がほとばしる。
尚もギロチンの刃はマリーの中を突き進む。
胸骨乳突筋を切り裂き、僧帽筋まで到達した。
首の皮一枚である。
38歳というまだ若い心臓の血圧に、半分まで切り込まれた僧帽筋は耐えることが出来なかった。
ギロチンの刃が、マリーの白く細い首を完全に断ち切る前に、僧帽筋は血圧の勢いに負けた。
マリーの首は噴血に乗って天高く舞った。
脳への酸素が遮断された瞬間、人は意識を失う。
天に高く高く舞ったマリーは、青空を飛び過ぎった鳥が真っ白い鳩だったという事を、認識する事は出来なかった。
転がり落ちたマリーの首には、民衆の歓声は聞こえなかった。




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Posted by koujun at 02:33TrackBack(0)雑記

2008年02月12日

騙しのテクニック

『勝手に決め付けていいですか?毎日寂しい夜なんでしょ?違う?うふふ。無理すんな☆そんな貴方に朗報!タッタ3000円でS女のリストを送ります。使い放題やり放題!さぁ、今すぐ振込みなさい!』


どうも。
勝手にマゾ男にされてしまったコウジュンです。


僕はPCの迷惑メールを削除する前に一応読みます。
大体、このような胡散臭いメールです。
本当に振り込むヤツなんているんかいな。
まぁ、居るからこの手の迷惑メールが後を絶たないんだろうけど。
いい暇つぶしになるから、僕にとっては迷惑ではないんですが。




『振込み、有難うございます。早速S女のリストを送ります。お楽しみアレ。(※更に5000円の送金で伏字無しのアドレスを送ります)


滋賀県 山岡ミミ子 24歳 85-54-82 m●on●yon@●●●.co.jp
滋賀県 大林希美  30歳 80-49-81 sek●usu●aisuki@●●●.ne.jp
滋賀県 今野恭子  21歳 88-57-79 ●annko●ikuiku@●●●.ne.jp
滋賀県 …………。』


大伴啓太はメールボックスを開いて唖然とした。
四日前に、怪しげなメールが届いた。
これは絶対に詐欺だと思いつつも、まだ女性の胸の柔らかさを知らない啓太は一日中思い悩み、甘酸っぱい桃色の欲望に負けた。
メールに記載されていた銀行口座に3000円を振り込んだのだ。
そうすれば、S女のリストを送ると書かれていたからだ。
使い放題、やり放題と書かれていたからだ。
しかし、送られてきたリストのアドレスは伏字で使えない。
まさか、こんなリストが送られてくるとは。
しかも、S女って…。
滋賀県の女かい!!
こうして、いまだ女性の唇の柔らかさを知らない啓太は大人になって行くのでした。




『お振込み有難うございました。ご入金の確認がとれました。更に1万5千円のご入金で【魅惑のワクワクお見合いパーティー・BEAUTIFUl】』へのご招待IDを送ります』


萩本健二郎はメールボックスを開いて、一瞬なんの事か飲み込めなかった。
そしてもう一度、一週間前に送られてきたメールアドレスを確認した。
ちょっと待て!
健二郎は思わずPCの画面に叱責した。
お見合いパーティーって何だ!
俺はそんな所に行きたくて5000円も追加送金したんじゃないぞ!
伏字の無いメールアドレスが送られてくる筈なのに!
まただ!
ちきしょう!
またやられた!
もう、二度と騙されないぞ!
と言いつつも、健二郎は懲りずに出会い系サイトをはしごするのである。





『お振込み有難う御座いました。ご入金の確認が取れましたので、【ご招待ID】を送ります。当サイトで最終登録を行って下さい。


【ご招待ID・anntamo-bakane】』


これでいいのだ。
安西義重は自分に言い聞かせた。
俺ももう56だ。
そろそろ身を固めなければ。
10日前に送られてきたメールにノって、軽い気持ちで3000円入金した。
それが、まさかお見合いパーティーにご招待されるとは。
俺ももう56だ
俺みたいな男がご招待されてもいいのだろうか。
こういう出会いも…アリかもしれない。



こうして、義重はノコノコと結婚詐欺師達が待ち受ける甘くて危険な蜘蛛の巣に自ら飛び込んでいくのである。


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Posted by koujun at 22:36TrackBack(0)雑記

2008年02月09日

母ちゃんごめん。

母ちゃんごめん。
今更もう遅いか。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。


この子は本当は根の優しい子なんです。
俺が問題を起こす度に言っていた母ちゃん。
何度も万引きするたびに何度も頭を下げた母ちゃん。


ガキの頃、働いていた弁当屋から割烹着と長靴姿で授業参観に駆けつけた時、俺は母ちゃんの事をみっともないと思った。
友達の母ちゃんは綺麗な服を着て綺麗な化粧をしているのに。
割烹着と長靴姿の母ちゃんを見て、俺は惨めに思っていた。


この子は本当は根の優しい子なんです。
そんな事はもう言わんでくれ母ちゃん。
俺はどうしようもない男だ。


中学を出て働くでもなく、いつしか悪い仲間とつるんでヤクザな道に足を踏み入れた。
何度も警察沙汰を起こしても母ちゃんだけは俺を庇ってくれた。


親父が居ない事に引け目を感じていた母ちゃん。
貧乏に引き目を感じていた母ちゃん。
学が無い事に引け目を感じていた母ちゃん。


お前が悪いんじゃないみんな母ちゃんが悪いんだからお前は悪くない。
もう、そんな事は言わんでくれ。


ああ、母ちゃん。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。


今更だけど、今更だけど、俺は母ちゃんに言っておきたい事があったのにもう遅い。
もう遅い。
だんだんと近づいてきた。
俺は取り返しのつかない事をしてしまったよ母ちゃん。


死ぬ時に人は自分の人生を走馬灯の様に思い出す。
と云うけれど、俺は母ちゃんの事しか思い出さんよ。
母ちゃん。
言いたい事が一つだけあるんだ。

だんだんと近づいてきた地面に頭が当たり、ぐしゃりと云う音を俺は聞いた。




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Posted by koujun at 23:52TrackBack(0)小説

2008年02月07日

『早口三人衆』

『早口三人衆』



 お洒落なバーのカウンターで男が三人呑んでいる。


猿顔男 で、俺に気が有るのかなーって思って声をかけたら、一発でOK
豚顔男 嘘付け!
猿顔男 ホントだって!
河童顔 どうせ、ブスなんだろ


 猿顔男、すかさず携帯の画面を見せる。


豚顔男 おおう!
河童顔 ほほう!
猿顔男 美人だろ
河童顔 どうせ、ヤクザの娘とかだろ。性悪な目をしている
猿顔男 聞いて驚け野郎ども。彼女のお父様はなんと、東京都特許許可局の     
     局長なんだよ!
河童顔 何?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
豚顔男 え?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
河童顔 何だって?
猿顔男 東京都特許許可局何回言わすんだ!コラ!
豚顔男 東京都特許許可局の局長の娘は何してるんだよ
猿顔男 東京都特許許可局の娘はシャンソン歌手だよ
河童顔 シャンソン歌手?
猿顔男 そうだよ、来月シャンソン歌手総出演シャンソンシショーに出るんだよ
河童顔 なに?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
豚顔男 え?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
河童男 何だって?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャン何回言わすんだコラ!
豚顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは、どこでやるんだよ
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは外国でやるんだよ
豚顔男 外国ってドコだよ
猿顔男 チェジュ島だよ
河童顔 チェジュ島ってドコだよ
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童顔 なに?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
豚顔男 え?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童男 何だって?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せって言ってんだよ!!
豚顔男 まとめて言うと?
猿顔男 東京都特許許可局の局長の娘はシャンソン歌手総出演シャンソンショー
     をしに地図帳でチェジュ島を探して行った!
河童顔 お見事!




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Posted by koujun at 22:30TrackBack(0)コント

2008年02月06日

『思い出はゴミ箱に』 5

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『思い出はゴミ箱に』 4






『思い出はゴミ箱に』





やっぱりアイツはそう云うヤツなんだ。
待ち合わせの時間から30分過ぎていた。
その30分の間に、店を出ようと四回腰を上げ、思いなおして四回腰を下ろした。
そして今、五回目の腰を浮かせた。
会えなくて良かったかもしれない。
別に縒りを戻す積もりはさらさら無いけれど、会ってしまったらそういう事になるかもしれない。
もしそういう事になったらミチコは怒るだろう。
いや、怒りを通り越して呆れるかもしれないな。
懲りない女だねぇって、笑うかもしれない。
勿論、アタシは縒りを戻す気は無い。
『愛の反対は憎しみではなく、無関心である』。
なんて、マザー何とかさんが言っていたらしいけど、まさにその通りだ。
アタシはアイツを恨んだりなんかしていない。
無関心なのだ。
だから、アイツが約束をスッポかしても何とも思わない。
「ごめん」
席から立ち上がって、バックを取ろうと横を向いていた時に不意をつかれた。
シンジが立っていた。
アタシは驚いてストンと腰を落とした。


「久しぶりだな」
「うん。そうだね」
シンジが注文したシナモン・ティーが来たときに、ようやくアタシ達は会話をした。
そして思い出した。
シンジはいつもシナモン・ティーだった。
シンジはシナモン・ティーを一口啜ってマルボロを一口吸った。
その姿は少しも変わっていなかった。
八年前よりも精悍な顔つきになっている。
もし、もしも、縒りを戻したいなんて言っても…。
言ったとしても…。
一言、謝れば考えなくも無い。


アタシとシンジはぽつりぽつりと話した。
カメラマンとして順調にやっている事や、
アタシがアパートを引っ越した事や、
先月、日本に帰って来たばかりだという事や、
アタシの妹に二人目の子供が出来た事や、
来月には再びロスに戻る事や。


「え?戻るの?」
「うん」
三本目のマルボロの火を捻じり消してシンジは言った。
「それでさ」
渡したい物があるんだとシンジは言って、リュックから朱色のアルバムを取り出した。
それが何なのか私には直ぐに分かった。
アタシはシンジが写っている緑色のアルバムを持ち、シンジはアタシが写っている朱色のアルバムを持っていた。
「これを返したくて」
「え?」
「ロスに行ったら、もう会えないだろうし」
「………捨てればいいのに」
「女は簡単に出来るだろうけどさ…。」
話はもうとっくに別れた男と女という前提で進んでいた。
まだ、アタシは別れの言葉を聞いてはいないのに。
「お前が持っていた、あのアルバムは?」
「捨てたよ、とっくに」
「そうか」
やっぱりな。と言うような感じでシンジは言った。
シンジはテーブルの上に朱色のアルバムを残し、シナモン・ティーも半分残し、アタシをカフェに残して去っていった。


アタシは携帯電話でメールをした。
ミチコとトモミとサオリをアパートに招待した。
これからアタシの部屋で飲もうと思う。


今日のアタシはきっと荒れる。


おわり。




こちらもどうぞ。
『琉球舞台』
http://www.geocities.jp/pandacopanda1/




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Posted by koujun at 09:17TrackBack(0)小説

2008年02月05日

『マッチ売りのお婆さん』

『マッチ売りのお婆さん』



皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
街の中で探しているよ。


アハハ可笑しいね。
街の中にクローバーは無いのに。


皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
雪の降る街の中で探しているよ。


アハハ可笑しいね。
雪の降る街の中にクローバーは無いのに。


皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
裸足になって
雪の降る街の中で探しているよ。


アハハ可笑しいね。
裸足になって
雪の降る街の中を探しても
クローバーは無いのに。


皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。
皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。


街のみんなは知らんぷり。


雪の中に倒れ込んで
とわの眠りに溶けても。
幸せのクローバーは見つからないよ。
夢の中でも見つからないよ。


あはは。
悲しいね。



(森田ぢゆ 詩集『拝啓、ハンス様。』より抜粋)
  

Posted by koujun at 09:47TrackBack(0)

2008年02月04日

嗤う者。

単なる空耳だと思っていたのに、これでは幻聴だ。
『…オノ……………』
夜になると聴こえてくる。


殺人事件の報道をテレビで見ると、ときおり被害者の顔写真と名前と年齢が画面に映し出される。
俺はそれを見る度に、知人の顔がそこに有ったらどう云う気持ちになるのだろうと思っていた。
「……会社員、遠藤弥一郎さんが胸を刺され、自宅の寝室で発見されました。先月起こった御津市の事件と手口が似ている為、同一犯の犯行とみて警察は…」
遠藤弥一郎さん(38)。
俺は遠藤の顔写真が映っているテレビ画面を呆然と見ていた。
遠藤が、殺された…。


遠藤は嫌な男だった。
アイツは俺の直属の上司で、よく一緒に営業で外回りをした。
最新型コピー機『PXV-Ⅰ 850シリーズ』のカタログを持って市内の会社、事務所を二人で回った。
機の説明をするのは俺の役目で、薦めるのが遠藤の役回りだった。


遠藤は嫌な男だった。
軽い口調と柔和な笑顔で接客し、一歩外に出ればさっきまで親しげに商談をしていた者の悪口を言い嘲笑う。
「あの男、ありゃあ出世しないな。声に覇気がない。受け答えもバカ丸出しだったしな。低学歴の部落出身者だぜ」
最低な男だ。
特にけなす所が見つからなければ、決まって、
「アイツにはオーラが無い」
と言って嗤った。


遠藤は嫌な男だった。
時々、俺を呑みに誘った。
一度呑みに行った時、もう二度とコイツとは行かないと思った。
遠藤の話しは始終悪口に尽きた。
社の内外を問わず、遠藤は罵り続けた。
きっと俺の居ない所で俺の影口を叩いているに違いない。
何度か誘いを断ってはいたが、いつまでも断り続ける事も出来い。
最後に呑んだときに、遠藤はポツリとこんな事を言った。
「最近、耳がおかしいんだよ」
「病院に行ったらいいんじゃないですか?」


『……オノ…………ナ………』
夜になると聴こえる幻聴は日に日に明瞭に鳴ってゆく。
俺は一日中アパートに篭り布団の中で耳を塞いだ。
『……オノ…………ナ…タ…』
今日で会社を休んで2日目だ。


その郵便物が届いていたのは日曜日だった。
インスタント食料を買いに近くのコンビニへ行き、戻ってくるとドアの下に小筒が置かれていた。
手のひら二つ分の大きさの小包だった。
差出人は不明だが受取人の欄に俺の名が書かれていた。


藁の人形と太い釘。
細長い和紙と細い竹筆。
小ぶりの硯と少量の墨が入った小瓶。


小包に入っていた物を取り出した。
説明書らしき物は入っては居なかったが、それが何に使う物なのかは見当がついた。
こういう冗談は嫌いではない。
俺は面白半分に和紙にあの男の名前を書いて、釘を打ち付けた。
作法は分からないが、してはいけない事をしている気分だった。
が、悪い気分では無かった。


『ヒ…オノ…………ナ…タ…』
日に日に明瞭に鳴ってゆく幻聴はどこかで聞いたことがある様な声だった。
『ヒ…オノ…ワ……ナ…タ…』
その声は俺の耳の傍で聞こえる。すぐ傍で…。
『ヒ…オノ…ワバ…ナ…タ…』


遠藤弥一郎が死んだのは俺が藁の人形に釘を打ち込んだ翌日だった。
テレビを見ていた俺は遠藤が殺された事を知り、ゴミ箱に捨てた藁の人形を拾った。
藁の人形が嗤っていた。


幻聴が頭の中に染み入る。
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタ…』
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタツ』
『ヒ…オノロワ…アナフタツ』
俺の耳元で、死んだ遠藤弥一郎の声がはっきりと響いた。
『人を呪わば穴二つ!!』


「手口は一緒ですね」
「ああ」
胸から血を流して死んでいる佐山克人の死体を見下ろして、若い山田が初老の阿久津に言った。
「カルト団体…ですかね」
「ん?」
「あの藁人形」
「ああ。…それも視野に入れて捜査したほうがいいな。」
「マスコミには」
「まだ伏せとけ」
「はい」


これで凶器の無い殺人事件は三件目だった。
共通点は、死因が鋭利な刃物による胸部裂傷である事と、殺人現場に残された藁人形だった。




午後11時。
いつも帰りは遅い。
最近バイトの娘が辞めたから、皺寄せが私に来る。
疲れたな…。
アパートの外付け階段を上がると、一番奥が私の部屋だ。
その私の部屋のドア前に、小包が置かれていた。




  

Posted by koujun at 01:22TrackBack(0)小説

2008年02月03日

『思い出はゴミ箱に』 4

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『思い出はゴミ箱に』 3







『思い出はゴミ箱に』 





アタシのフェンディは18時を過ぎていた。
『かふぇ サラスヴァティー』の壁に掛かっているシンプルな木目調の柱時計も18時を過ぎていた。
三杯目のモンスーン・マラパールはカップの半分を残して冷め始めている。
カフェの入り口のドアに備え付けてある鈴が囀る度に、ドアを見る。
出入りするのは見知らぬ人ばかり。
もう帰ろう。
遅れ人を責める気持ちは無かった。
むしろ、会えなかった事に安堵していた。 


「ぜったい会っちゃ駄目だよ、メグミ」
ミチコの言葉を思い出しながら、アタシは卓上メモに書かれた9桁の数字を見ていた。
サオリから教えてもらったシンジの電話番号。
この9桁の数字の向こうにシンジはいる。


アタシは7桁まで番号を押して消した。
会ってどうするの?
ちゃんと別れを告げずに逃げるように去って行った男だよ?
ソファに寝転がってテレビを見る。
歌番組だった。
メテオストライクスと云うパンクロックバンドが英語なのか日本語なのか判別不能な歌を歌っている。
トモミが今一番お気に入りのパンクロックバンドだ。
テレビを消した。
深夜の2時は静寂だ。
時折、バイクの走る音が遠くで聞こえる以外は。

アタシは再び携帯電話と卓上メモを取った。
8桁まで一気に番号を押す。
そして間をおいて9桁目を付け足した。
後は発信ボタンを押すだけ。


「はい」
不機嫌で不明瞭なシンジの声が電話の向こうから聞こえた。
時刻は深夜2時。
寝ていたのだろう。
「あの」
「!メグミ?」
「…うん」
八年ぶりの会話だった。
シンジは八年ぶりなのに、一言でアタシの事に気づいてくれた。


話し終わって携帯電話の通話時間を見たら58分も経っていた。
10分くらいしか経っていない様な気がしていたのに。


逢いたいと言われた。
会いたいじゃなくて、多分、逢いたい。
渡したい物があるから。
昔、よく行っていたあのカフェで。
明日の18時に。
逢いたいと言われた。


逢いたいって。
言われちゃった。



つづく



  

Posted by koujun at 09:33TrackBack(0)小説