2008年02月15日
『雨』
『雨
暗雲たる運行は陰鬱なる余韻
鵺の秘めたる悲鳴に
明朗な我も滅入ろう
嗚呼、曇天はいずれ破れ
粘り気の雨が降る
粘り気の雨に濡れて
涙も雨情と化す
栄江田小学校5年4組 籐野 満』
何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。
これが、小学生の詩か?
『雨』
国語の時間に一樹が生徒に与えた詩のタイトルである。
書いたのは籐野満だ。
読書家ではある。
学級委員長でもある。
そして何よりも生意気なガキである。
大人の言葉尻に微細な語彙があれば、それを挙げつくらって嘲笑う。
大体、『鵺の秘めたる悲鳴に』ってなんだよ。
鵺って妖怪じゃないか。
幾らなんでも色を付け過ぎている。
詩と云うのは本来、思考を自由に羽ばたかせて書くものだから、表現は自由であるべきだ。
であるべきではあるが、日頃の憂さもあって一樹は満に忠告した。
「鵺っていうのは架空の生き物だから、ここは普通の動物でもいいんじゃないかな」
「鵺っていうのは、トラツグミの事ですよ。知らないんですか?」
思い出すな一樹!
一樹は心中で呟いた。
収まっていた怒りが沸々としてくる。
ひと呼吸おいて、一樹は別の生徒の作文用紙をとった。
『雨
あめがぽつぽつふってまつ
そしてザーザーになりました。
そして雨がふりました
そして僕はうれしいかったです
雨はかみなり様のおしっこ
ばっちいな
栄江田小学校5年4組 あんざい しげと』
これが、小学5年生の詩か?
なぜ、ばっちいのに嬉しいのだ。
何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。
暗雲たる運行は陰鬱なる余韻
鵺の秘めたる悲鳴に
明朗な我も滅入ろう
嗚呼、曇天はいずれ破れ
粘り気の雨が降る
粘り気の雨に濡れて
涙も雨情と化す
栄江田小学校5年4組 籐野 満』
何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。
これが、小学生の詩か?
『雨』
国語の時間に一樹が生徒に与えた詩のタイトルである。
書いたのは籐野満だ。
読書家ではある。
学級委員長でもある。
そして何よりも生意気なガキである。
大人の言葉尻に微細な語彙があれば、それを挙げつくらって嘲笑う。
大体、『鵺の秘めたる悲鳴に』ってなんだよ。
鵺って妖怪じゃないか。
幾らなんでも色を付け過ぎている。
詩と云うのは本来、思考を自由に羽ばたかせて書くものだから、表現は自由であるべきだ。
であるべきではあるが、日頃の憂さもあって一樹は満に忠告した。
「鵺っていうのは架空の生き物だから、ここは普通の動物でもいいんじゃないかな」
「鵺っていうのは、トラツグミの事ですよ。知らないんですか?」
思い出すな一樹!
一樹は心中で呟いた。
収まっていた怒りが沸々としてくる。
ひと呼吸おいて、一樹は別の生徒の作文用紙をとった。
『雨
あめがぽつぽつふってまつ
そしてザーザーになりました。
そして雨がふりました
そして僕はうれしいかったです
雨はかみなり様のおしっこ
ばっちいな
栄江田小学校5年4組 あんざい しげと』
これが、小学5年生の詩か?
なぜ、ばっちいのに嬉しいのだ。
何とも云えない複雑な溜息を小学校教師、山本一樹はついた。
2008年02月14日
空飛ぶマリー。
趣味で小説を書いていると、何を書いてもいいという錯覚に陥ってしまう。
実際、プロじゃないんだから何を書いてもいいんだけどね。
例えば、普通なら一、二行で書き終わってしまう描写をねちねちと書いたらどうなるんだろう。
何でも無いごく普通の日常の一瞬を、こと細かに書いてみる。
ごくごく普通の日常を、スケッチ感覚で。
美しい自慢の髪もバッサリと短く切られていた。
か細い両の腕は後ろ手にきつく縛られている。
身窄らしい貧素な服を着ていても、彼女は堂々と前方に聳え立つギロチン台を見据えて歩いた。
途中、死刑執行官の足を踏みつけた彼女は、己の人生で最後の言葉を発した。
「あら、ごめんなさいね。わざとじゃないのよ。わざとじゃ」
1793年、10月16日。
パリの中心部、チュイルリー公園とシャンゼリゼ通りに挟まれ、後にコンコルド広場と呼ばれるようになるこの場所で、マリー・アントワネット・ジョセファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・ドートリッシュは斬首された。
ギロチン台の下まで来ると、マリーは膝を折って首添台に首を置こうとした。
「待て」
先ほど足を踏まれた死刑執行官が制する。
執行官はマリーを捕らえている執行人に何やら耳打った。
執行人は顔に一瞬の戸惑いを見せた。
しかし、執行官は残忍な光を目に宿し、やれ、と顎で命じた。
通常、ギロチンはうなじを天に向け、囚人は地面を見る格好で行われる。
ところが、マリーは咽喉が天を向く形、つまりギロチンの刃が見えるような不自然な格好で首を固定された。
落ちてくる刃が良く見えるように。
マリーの死に様を見ようと集まっていた野次馬の民衆は、遠巻きにその演出にどよめいた。
非難するものは誰も居ない。
それほどまでにマリーは民衆に疎まれていた。
思わず、マリーの口元に自嘲の笑みが浮かんだ。
マリーは何も考えないようにしていた。
ただ、青い空だけを見ていた。
その青い空に一瞬、鳥が飛び過ぎった。
あれは、鳩かしら。鷹かしら。
執行官の号令でギロチンの重い刃を支えていた太い縄が切断された。
分厚い刃は、自重でぐんぐんと地面に引き寄せられる。
刃に括りつけられていた縄は、首を切られた蛇の様に暴れて空に舞った。
すぐさま刃はマリーの柔らかい咽喉を捉えた。
そしてそのまま広頚筋を引き裂いた。
この時点ではまだ出血はしていない。
続いて、甲状舌骨筋を分断して頚動脈と頚静脈、そして背骨の中を通っている椎骨動脈が切断された瞬間、頚動脈と椎骨動脈の二本の動脈から鮮血がほとばしる。
尚もギロチンの刃はマリーの中を突き進む。
胸骨乳突筋を切り裂き、僧帽筋まで到達した。
首の皮一枚である。
38歳というまだ若い心臓の血圧に、半分まで切り込まれた僧帽筋は耐えることが出来なかった。
ギロチンの刃が、マリーの白く細い首を完全に断ち切る前に、僧帽筋は血圧の勢いに負けた。
マリーの首は噴血に乗って天高く舞った。
脳への酸素が遮断された瞬間、人は意識を失う。
天に高く高く舞ったマリーは、青空を飛び過ぎった鳥が真っ白い鳩だったという事を、認識する事は出来なかった。
転がり落ちたマリーの首には、民衆の歓声は聞こえなかった。
実際、プロじゃないんだから何を書いてもいいんだけどね。
例えば、普通なら一、二行で書き終わってしまう描写をねちねちと書いたらどうなるんだろう。
何でも無いごく普通の日常の一瞬を、こと細かに書いてみる。
ごくごく普通の日常を、スケッチ感覚で。
美しい自慢の髪もバッサリと短く切られていた。
か細い両の腕は後ろ手にきつく縛られている。
身窄らしい貧素な服を着ていても、彼女は堂々と前方に聳え立つギロチン台を見据えて歩いた。
途中、死刑執行官の足を踏みつけた彼女は、己の人生で最後の言葉を発した。
「あら、ごめんなさいね。わざとじゃないのよ。わざとじゃ」
1793年、10月16日。
パリの中心部、チュイルリー公園とシャンゼリゼ通りに挟まれ、後にコンコルド広場と呼ばれるようになるこの場所で、マリー・アントワネット・ジョセファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・ドートリッシュは斬首された。
ギロチン台の下まで来ると、マリーは膝を折って首添台に首を置こうとした。
「待て」
先ほど足を踏まれた死刑執行官が制する。
執行官はマリーを捕らえている執行人に何やら耳打った。
執行人は顔に一瞬の戸惑いを見せた。
しかし、執行官は残忍な光を目に宿し、やれ、と顎で命じた。
通常、ギロチンはうなじを天に向け、囚人は地面を見る格好で行われる。
ところが、マリーは咽喉が天を向く形、つまりギロチンの刃が見えるような不自然な格好で首を固定された。
落ちてくる刃が良く見えるように。
マリーの死に様を見ようと集まっていた野次馬の民衆は、遠巻きにその演出にどよめいた。
非難するものは誰も居ない。
それほどまでにマリーは民衆に疎まれていた。
思わず、マリーの口元に自嘲の笑みが浮かんだ。
マリーは何も考えないようにしていた。
ただ、青い空だけを見ていた。
その青い空に一瞬、鳥が飛び過ぎった。
あれは、鳩かしら。鷹かしら。
執行官の号令でギロチンの重い刃を支えていた太い縄が切断された。
分厚い刃は、自重でぐんぐんと地面に引き寄せられる。
刃に括りつけられていた縄は、首を切られた蛇の様に暴れて空に舞った。
すぐさま刃はマリーの柔らかい咽喉を捉えた。
そしてそのまま広頚筋を引き裂いた。
この時点ではまだ出血はしていない。
続いて、甲状舌骨筋を分断して頚動脈と頚静脈、そして背骨の中を通っている椎骨動脈が切断された瞬間、頚動脈と椎骨動脈の二本の動脈から鮮血がほとばしる。
尚もギロチンの刃はマリーの中を突き進む。
胸骨乳突筋を切り裂き、僧帽筋まで到達した。
首の皮一枚である。
38歳というまだ若い心臓の血圧に、半分まで切り込まれた僧帽筋は耐えることが出来なかった。
ギロチンの刃が、マリーの白く細い首を完全に断ち切る前に、僧帽筋は血圧の勢いに負けた。
マリーの首は噴血に乗って天高く舞った。
脳への酸素が遮断された瞬間、人は意識を失う。
天に高く高く舞ったマリーは、青空を飛び過ぎった鳥が真っ白い鳩だったという事を、認識する事は出来なかった。
転がり落ちたマリーの首には、民衆の歓声は聞こえなかった。
2008年02月12日
騙しのテクニック
『勝手に決め付けていいですか?毎日寂しい夜なんでしょ?違う?うふふ。無理すんな☆そんな貴方に朗報!タッタ3000円でS女のリストを送ります。使い放題やり放題!さぁ、今すぐ振込みなさい!』
どうも。
勝手にマゾ男にされてしまったコウジュンです。
僕はPCの迷惑メールを削除する前に一応読みます。
大体、このような胡散臭いメールです。
本当に振り込むヤツなんているんかいな。
まぁ、居るからこの手の迷惑メールが後を絶たないんだろうけど。
いい暇つぶしになるから、僕にとっては迷惑ではないんですが。
『振込み、有難うございます。早速S女のリストを送ります。お楽しみアレ。(※更に5000円の送金で伏字無しのアドレスを送ります)
滋賀県 山岡ミミ子 24歳 85-54-82 m●on●yon@●●●.co.jp
滋賀県 大林希美 30歳 80-49-81 sek●usu●aisuki@●●●.ne.jp
滋賀県 今野恭子 21歳 88-57-79 ●annko●ikuiku@●●●.ne.jp
滋賀県 …………。』
大伴啓太はメールボックスを開いて唖然とした。
四日前に、怪しげなメールが届いた。
これは絶対に詐欺だと思いつつも、まだ女性の胸の柔らかさを知らない啓太は一日中思い悩み、甘酸っぱい桃色の欲望に負けた。
メールに記載されていた銀行口座に3000円を振り込んだのだ。
そうすれば、S女のリストを送ると書かれていたからだ。
使い放題、やり放題と書かれていたからだ。
しかし、送られてきたリストのアドレスは伏字で使えない。
まさか、こんなリストが送られてくるとは。
しかも、S女って…。
滋賀県の女かい!!
こうして、いまだ女性の唇の柔らかさを知らない啓太は大人になって行くのでした。
『お振込み有難うございました。ご入金の確認がとれました。更に1万5千円のご入金で【魅惑のワクワクお見合いパーティー・BEAUTIFUl】』へのご招待IDを送ります』
萩本健二郎はメールボックスを開いて、一瞬なんの事か飲み込めなかった。
そしてもう一度、一週間前に送られてきたメールアドレスを確認した。
ちょっと待て!
健二郎は思わずPCの画面に叱責した。
お見合いパーティーって何だ!
俺はそんな所に行きたくて5000円も追加送金したんじゃないぞ!
伏字の無いメールアドレスが送られてくる筈なのに!
まただ!
ちきしょう!
またやられた!
もう、二度と騙されないぞ!
と言いつつも、健二郎は懲りずに出会い系サイトをはしごするのである。
『お振込み有難う御座いました。ご入金の確認が取れましたので、【ご招待ID】を送ります。当サイトで最終登録を行って下さい。
【ご招待ID・anntamo-bakane】』
これでいいのだ。
安西義重は自分に言い聞かせた。
俺ももう56だ。
そろそろ身を固めなければ。
10日前に送られてきたメールにノって、軽い気持ちで3000円入金した。
それが、まさかお見合いパーティーにご招待されるとは。
俺ももう56だ
俺みたいな男がご招待されてもいいのだろうか。
こういう出会いも…アリかもしれない。
こうして、義重はノコノコと結婚詐欺師達が待ち受ける甘くて危険な蜘蛛の巣に自ら飛び込んでいくのである。
どうも。
勝手にマゾ男にされてしまったコウジュンです。
僕はPCの迷惑メールを削除する前に一応読みます。
大体、このような胡散臭いメールです。
本当に振り込むヤツなんているんかいな。
まぁ、居るからこの手の迷惑メールが後を絶たないんだろうけど。
いい暇つぶしになるから、僕にとっては迷惑ではないんですが。
『振込み、有難うございます。早速S女のリストを送ります。お楽しみアレ。(※更に5000円の送金で伏字無しのアドレスを送ります)
滋賀県 山岡ミミ子 24歳 85-54-82 m●on●yon@●●●.co.jp
滋賀県 大林希美 30歳 80-49-81 sek●usu●aisuki@●●●.ne.jp
滋賀県 今野恭子 21歳 88-57-79 ●annko●ikuiku@●●●.ne.jp
滋賀県 …………。』
大伴啓太はメールボックスを開いて唖然とした。
四日前に、怪しげなメールが届いた。
これは絶対に詐欺だと思いつつも、まだ女性の胸の柔らかさを知らない啓太は一日中思い悩み、甘酸っぱい桃色の欲望に負けた。
メールに記載されていた銀行口座に3000円を振り込んだのだ。
そうすれば、S女のリストを送ると書かれていたからだ。
使い放題、やり放題と書かれていたからだ。
しかし、送られてきたリストのアドレスは伏字で使えない。
まさか、こんなリストが送られてくるとは。
しかも、S女って…。
滋賀県の女かい!!
こうして、いまだ女性の唇の柔らかさを知らない啓太は大人になって行くのでした。
『お振込み有難うございました。ご入金の確認がとれました。更に1万5千円のご入金で【魅惑のワクワクお見合いパーティー・BEAUTIFUl】』へのご招待IDを送ります』
萩本健二郎はメールボックスを開いて、一瞬なんの事か飲み込めなかった。
そしてもう一度、一週間前に送られてきたメールアドレスを確認した。
ちょっと待て!
健二郎は思わずPCの画面に叱責した。
お見合いパーティーって何だ!
俺はそんな所に行きたくて5000円も追加送金したんじゃないぞ!
伏字の無いメールアドレスが送られてくる筈なのに!
まただ!
ちきしょう!
またやられた!
もう、二度と騙されないぞ!
と言いつつも、健二郎は懲りずに出会い系サイトをはしごするのである。
『お振込み有難う御座いました。ご入金の確認が取れましたので、【ご招待ID】を送ります。当サイトで最終登録を行って下さい。
【ご招待ID・anntamo-bakane】』
これでいいのだ。
安西義重は自分に言い聞かせた。
俺ももう56だ。
そろそろ身を固めなければ。
10日前に送られてきたメールにノって、軽い気持ちで3000円入金した。
それが、まさかお見合いパーティーにご招待されるとは。
俺ももう56だ
俺みたいな男がご招待されてもいいのだろうか。
こういう出会いも…アリかもしれない。
こうして、義重はノコノコと結婚詐欺師達が待ち受ける甘くて危険な蜘蛛の巣に自ら飛び込んでいくのである。
2008年02月09日
母ちゃんごめん。
母ちゃんごめん。
今更もう遅いか。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。
この子は本当は根の優しい子なんです。
俺が問題を起こす度に言っていた母ちゃん。
何度も万引きするたびに何度も頭を下げた母ちゃん。
ガキの頃、働いていた弁当屋から割烹着と長靴姿で授業参観に駆けつけた時、俺は母ちゃんの事をみっともないと思った。
友達の母ちゃんは綺麗な服を着て綺麗な化粧をしているのに。
割烹着と長靴姿の母ちゃんを見て、俺は惨めに思っていた。
この子は本当は根の優しい子なんです。
そんな事はもう言わんでくれ母ちゃん。
俺はどうしようもない男だ。
中学を出て働くでもなく、いつしか悪い仲間とつるんでヤクザな道に足を踏み入れた。
何度も警察沙汰を起こしても母ちゃんだけは俺を庇ってくれた。
親父が居ない事に引け目を感じていた母ちゃん。
貧乏に引き目を感じていた母ちゃん。
学が無い事に引け目を感じていた母ちゃん。
お前が悪いんじゃないみんな母ちゃんが悪いんだからお前は悪くない。
もう、そんな事は言わんでくれ。
ああ、母ちゃん。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。
今更だけど、今更だけど、俺は母ちゃんに言っておきたい事があったのにもう遅い。
もう遅い。
だんだんと近づいてきた。
俺は取り返しのつかない事をしてしまったよ母ちゃん。
死ぬ時に人は自分の人生を走馬灯の様に思い出す。
と云うけれど、俺は母ちゃんの事しか思い出さんよ。
母ちゃん。
言いたい事が一つだけあるんだ。
だんだんと近づいてきた地面に頭が当たり、ぐしゃりと云う音を俺は聞いた。
今更もう遅いか。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。
この子は本当は根の優しい子なんです。
俺が問題を起こす度に言っていた母ちゃん。
何度も万引きするたびに何度も頭を下げた母ちゃん。
ガキの頃、働いていた弁当屋から割烹着と長靴姿で授業参観に駆けつけた時、俺は母ちゃんの事をみっともないと思った。
友達の母ちゃんは綺麗な服を着て綺麗な化粧をしているのに。
割烹着と長靴姿の母ちゃんを見て、俺は惨めに思っていた。
この子は本当は根の優しい子なんです。
そんな事はもう言わんでくれ母ちゃん。
俺はどうしようもない男だ。
中学を出て働くでもなく、いつしか悪い仲間とつるんでヤクザな道に足を踏み入れた。
何度も警察沙汰を起こしても母ちゃんだけは俺を庇ってくれた。
親父が居ない事に引け目を感じていた母ちゃん。
貧乏に引き目を感じていた母ちゃん。
学が無い事に引け目を感じていた母ちゃん。
お前が悪いんじゃないみんな母ちゃんが悪いんだからお前は悪くない。
もう、そんな事は言わんでくれ。
ああ、母ちゃん。
俺は取り返しのつかない事をしてしまった。
だんだんと近づいてくる。
今更だけど、今更だけど、俺は母ちゃんに言っておきたい事があったのにもう遅い。
もう遅い。
だんだんと近づいてきた。
俺は取り返しのつかない事をしてしまったよ母ちゃん。
死ぬ時に人は自分の人生を走馬灯の様に思い出す。
と云うけれど、俺は母ちゃんの事しか思い出さんよ。
母ちゃん。
言いたい事が一つだけあるんだ。
だんだんと近づいてきた地面に頭が当たり、ぐしゃりと云う音を俺は聞いた。
2008年02月07日
『早口三人衆』
『早口三人衆』
お洒落なバーのカウンターで男が三人呑んでいる。
猿顔男 で、俺に気が有るのかなーって思って声をかけたら、一発でOK
豚顔男 嘘付け!
猿顔男 ホントだって!
河童顔 どうせ、ブスなんだろ
猿顔男、すかさず携帯の画面を見せる。
豚顔男 おおう!
河童顔 ほほう!
猿顔男 美人だろ
河童顔 どうせ、ヤクザの娘とかだろ。性悪な目をしている
猿顔男 聞いて驚け野郎ども。彼女のお父様はなんと、東京都特許許可局の
局長なんだよ!
河童顔 何?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
豚顔男 え?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
河童顔 何だって?
猿顔男 東京都特許許可局何回言わすんだ!コラ!
豚顔男 東京都特許許可局の局長の娘は何してるんだよ
猿顔男 東京都特許許可局の娘はシャンソン歌手だよ
河童顔 シャンソン歌手?
猿顔男 そうだよ、来月シャンソン歌手総出演シャンソンシショーに出るんだよ
河童顔 なに?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
豚顔男 え?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
河童男 何だって?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャン何回言わすんだコラ!
豚顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは、どこでやるんだよ
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは外国でやるんだよ
豚顔男 外国ってドコだよ
猿顔男 チェジュ島だよ
河童顔 チェジュ島ってドコだよ
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童顔 なに?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
豚顔男 え?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童男 何だって?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せって言ってんだよ!!
豚顔男 まとめて言うと?
猿顔男 東京都特許許可局の局長の娘はシャンソン歌手総出演シャンソンショー
をしに地図帳でチェジュ島を探して行った!
河童顔 お見事!
お洒落なバーのカウンターで男が三人呑んでいる。
猿顔男 で、俺に気が有るのかなーって思って声をかけたら、一発でOK
豚顔男 嘘付け!
猿顔男 ホントだって!
河童顔 どうせ、ブスなんだろ
猿顔男、すかさず携帯の画面を見せる。
豚顔男 おおう!
河童顔 ほほう!
猿顔男 美人だろ
河童顔 どうせ、ヤクザの娘とかだろ。性悪な目をしている
猿顔男 聞いて驚け野郎ども。彼女のお父様はなんと、東京都特許許可局の
局長なんだよ!
河童顔 何?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
豚顔男 え?
猿顔男 東京都特許許可局の局長だよ!
河童顔 何だって?
猿顔男 東京都特許許可局何回言わすんだ!コラ!
豚顔男 東京都特許許可局の局長の娘は何してるんだよ
猿顔男 東京都特許許可局の娘はシャンソン歌手だよ
河童顔 シャンソン歌手?
猿顔男 そうだよ、来月シャンソン歌手総出演シャンソンシショーに出るんだよ
河童顔 なに?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
豚顔男 え?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーだよ
河童男 何だって?
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャン何回言わすんだコラ!
豚顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは、どこでやるんだよ
猿顔男 シャンソン歌手総出演シャンソンショーは外国でやるんだよ
豚顔男 外国ってドコだよ
猿顔男 チェジュ島だよ
河童顔 チェジュ島ってドコだよ
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童顔 なに?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
豚顔男 え?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せよ
河童男 何だって?
猿顔男 地図帳でチェジュ島を探せって言ってんだよ!!
豚顔男 まとめて言うと?
猿顔男 東京都特許許可局の局長の娘はシャンソン歌手総出演シャンソンショー
をしに地図帳でチェジュ島を探して行った!
河童顔 お見事!
2008年02月06日
『思い出はゴミ箱に』 5
↓↓コチラから先にお読みください↓↓
『思い出はゴミ箱に』 4
『思い出はゴミ箱に』
5
やっぱりアイツはそう云うヤツなんだ。
待ち合わせの時間から30分過ぎていた。
その30分の間に、店を出ようと四回腰を上げ、思いなおして四回腰を下ろした。
そして今、五回目の腰を浮かせた。
会えなくて良かったかもしれない。
別に縒りを戻す積もりはさらさら無いけれど、会ってしまったらそういう事になるかもしれない。
もしそういう事になったらミチコは怒るだろう。
いや、怒りを通り越して呆れるかもしれないな。
懲りない女だねぇって、笑うかもしれない。
勿論、アタシは縒りを戻す気は無い。
『愛の反対は憎しみではなく、無関心である』。
なんて、マザー何とかさんが言っていたらしいけど、まさにその通りだ。
アタシはアイツを恨んだりなんかしていない。
無関心なのだ。
だから、アイツが約束をスッポかしても何とも思わない。
「ごめん」
席から立ち上がって、バックを取ろうと横を向いていた時に不意をつかれた。
シンジが立っていた。
アタシは驚いてストンと腰を落とした。
「久しぶりだな」
「うん。そうだね」
シンジが注文したシナモン・ティーが来たときに、ようやくアタシ達は会話をした。
そして思い出した。
シンジはいつもシナモン・ティーだった。
シンジはシナモン・ティーを一口啜ってマルボロを一口吸った。
その姿は少しも変わっていなかった。
八年前よりも精悍な顔つきになっている。
もし、もしも、縒りを戻したいなんて言っても…。
言ったとしても…。
一言、謝れば考えなくも無い。
アタシとシンジはぽつりぽつりと話した。
カメラマンとして順調にやっている事や、
アタシがアパートを引っ越した事や、
先月、日本に帰って来たばかりだという事や、
アタシの妹に二人目の子供が出来た事や、
来月には再びロスに戻る事や。
「え?戻るの?」
「うん」
三本目のマルボロの火を捻じり消してシンジは言った。
「それでさ」
渡したい物があるんだとシンジは言って、リュックから朱色のアルバムを取り出した。
それが何なのか私には直ぐに分かった。
アタシはシンジが写っている緑色のアルバムを持ち、シンジはアタシが写っている朱色のアルバムを持っていた。
「これを返したくて」
「え?」
「ロスに行ったら、もう会えないだろうし」
「………捨てればいいのに」
「女は簡単に出来るだろうけどさ…。」
話はもうとっくに別れた男と女という前提で進んでいた。
まだ、アタシは別れの言葉を聞いてはいないのに。
「お前が持っていた、あのアルバムは?」
「捨てたよ、とっくに」
「そうか」
やっぱりな。と言うような感じでシンジは言った。
シンジはテーブルの上に朱色のアルバムを残し、シナモン・ティーも半分残し、アタシをカフェに残して去っていった。
アタシは携帯電話でメールをした。
ミチコとトモミとサオリをアパートに招待した。
これからアタシの部屋で飲もうと思う。
今日のアタシはきっと荒れる。
おわり。
こちらもどうぞ。
『琉球舞台』
http://www.geocities.jp/pandacopanda1/
『思い出はゴミ箱に』 4
『思い出はゴミ箱に』
5
やっぱりアイツはそう云うヤツなんだ。
待ち合わせの時間から30分過ぎていた。
その30分の間に、店を出ようと四回腰を上げ、思いなおして四回腰を下ろした。
そして今、五回目の腰を浮かせた。
会えなくて良かったかもしれない。
別に縒りを戻す積もりはさらさら無いけれど、会ってしまったらそういう事になるかもしれない。
もしそういう事になったらミチコは怒るだろう。
いや、怒りを通り越して呆れるかもしれないな。
懲りない女だねぇって、笑うかもしれない。
勿論、アタシは縒りを戻す気は無い。
『愛の反対は憎しみではなく、無関心である』。
なんて、マザー何とかさんが言っていたらしいけど、まさにその通りだ。
アタシはアイツを恨んだりなんかしていない。
無関心なのだ。
だから、アイツが約束をスッポかしても何とも思わない。
「ごめん」
席から立ち上がって、バックを取ろうと横を向いていた時に不意をつかれた。
シンジが立っていた。
アタシは驚いてストンと腰を落とした。
「久しぶりだな」
「うん。そうだね」
シンジが注文したシナモン・ティーが来たときに、ようやくアタシ達は会話をした。
そして思い出した。
シンジはいつもシナモン・ティーだった。
シンジはシナモン・ティーを一口啜ってマルボロを一口吸った。
その姿は少しも変わっていなかった。
八年前よりも精悍な顔つきになっている。
もし、もしも、縒りを戻したいなんて言っても…。
言ったとしても…。
一言、謝れば考えなくも無い。
アタシとシンジはぽつりぽつりと話した。
カメラマンとして順調にやっている事や、
アタシがアパートを引っ越した事や、
先月、日本に帰って来たばかりだという事や、
アタシの妹に二人目の子供が出来た事や、
来月には再びロスに戻る事や。
「え?戻るの?」
「うん」
三本目のマルボロの火を捻じり消してシンジは言った。
「それでさ」
渡したい物があるんだとシンジは言って、リュックから朱色のアルバムを取り出した。
それが何なのか私には直ぐに分かった。
アタシはシンジが写っている緑色のアルバムを持ち、シンジはアタシが写っている朱色のアルバムを持っていた。
「これを返したくて」
「え?」
「ロスに行ったら、もう会えないだろうし」
「………捨てればいいのに」
「女は簡単に出来るだろうけどさ…。」
話はもうとっくに別れた男と女という前提で進んでいた。
まだ、アタシは別れの言葉を聞いてはいないのに。
「お前が持っていた、あのアルバムは?」
「捨てたよ、とっくに」
「そうか」
やっぱりな。と言うような感じでシンジは言った。
シンジはテーブルの上に朱色のアルバムを残し、シナモン・ティーも半分残し、アタシをカフェに残して去っていった。
アタシは携帯電話でメールをした。
ミチコとトモミとサオリをアパートに招待した。
これからアタシの部屋で飲もうと思う。
今日のアタシはきっと荒れる。
おわり。
こちらもどうぞ。
『琉球舞台』
http://www.geocities.jp/pandacopanda1/
2008年02月05日
『マッチ売りのお婆さん』
『マッチ売りのお婆さん』
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
街の中にクローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
雪の降る街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
雪の降る街の中にクローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
裸足になって
雪の降る街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
裸足になって
雪の降る街の中を探しても
クローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。
皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。
街のみんなは知らんぷり。
雪の中に倒れ込んで
とわの眠りに溶けても。
幸せのクローバーは見つからないよ。
夢の中でも見つからないよ。
あはは。
悲しいね。
(森田ぢゆ 詩集『拝啓、ハンス様。』より抜粋)
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
街の中にクローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
雪の降る街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
雪の降る街の中にクローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が
幸せのクローバーを
裸足になって
雪の降る街の中で探しているよ。
アハハ可笑しいね。
裸足になって
雪の降る街の中を探しても
クローバーは無いのに。
皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。
皺寄せの苦労婆が探しているよ。
幸せのクローバーを探しているよ。
街のみんなは知らんぷり。
雪の中に倒れ込んで
とわの眠りに溶けても。
幸せのクローバーは見つからないよ。
夢の中でも見つからないよ。
あはは。
悲しいね。
(森田ぢゆ 詩集『拝啓、ハンス様。』より抜粋)
2008年02月04日
嗤う者。
単なる空耳だと思っていたのに、これでは幻聴だ。
『…オノ……………』
夜になると聴こえてくる。
殺人事件の報道をテレビで見ると、ときおり被害者の顔写真と名前と年齢が画面に映し出される。
俺はそれを見る度に、知人の顔がそこに有ったらどう云う気持ちになるのだろうと思っていた。
「……会社員、遠藤弥一郎さんが胸を刺され、自宅の寝室で発見されました。先月起こった御津市の事件と手口が似ている為、同一犯の犯行とみて警察は…」
遠藤弥一郎さん(38)。
俺は遠藤の顔写真が映っているテレビ画面を呆然と見ていた。
遠藤が、殺された…。
遠藤は嫌な男だった。
アイツは俺の直属の上司で、よく一緒に営業で外回りをした。
最新型コピー機『PXV-Ⅰ 850シリーズ』のカタログを持って市内の会社、事務所を二人で回った。
機の説明をするのは俺の役目で、薦めるのが遠藤の役回りだった。
遠藤は嫌な男だった。
軽い口調と柔和な笑顔で接客し、一歩外に出ればさっきまで親しげに商談をしていた者の悪口を言い嘲笑う。
「あの男、ありゃあ出世しないな。声に覇気がない。受け答えもバカ丸出しだったしな。低学歴の部落出身者だぜ」
最低な男だ。
特にけなす所が見つからなければ、決まって、
「アイツにはオーラが無い」
と言って嗤った。
遠藤は嫌な男だった。
時々、俺を呑みに誘った。
一度呑みに行った時、もう二度とコイツとは行かないと思った。
遠藤の話しは始終悪口に尽きた。
社の内外を問わず、遠藤は罵り続けた。
きっと俺の居ない所で俺の影口を叩いているに違いない。
何度か誘いを断ってはいたが、いつまでも断り続ける事も出来い。
最後に呑んだときに、遠藤はポツリとこんな事を言った。
「最近、耳がおかしいんだよ」
「病院に行ったらいいんじゃないですか?」
『……オノ…………ナ………』
夜になると聴こえる幻聴は日に日に明瞭に鳴ってゆく。
俺は一日中アパートに篭り布団の中で耳を塞いだ。
『……オノ…………ナ…タ…』
今日で会社を休んで2日目だ。
その郵便物が届いていたのは日曜日だった。
インスタント食料を買いに近くのコンビニへ行き、戻ってくるとドアの下に小筒が置かれていた。
手のひら二つ分の大きさの小包だった。
差出人は不明だが受取人の欄に俺の名が書かれていた。
藁の人形と太い釘。
細長い和紙と細い竹筆。
小ぶりの硯と少量の墨が入った小瓶。
小包に入っていた物を取り出した。
説明書らしき物は入っては居なかったが、それが何に使う物なのかは見当がついた。
こういう冗談は嫌いではない。
俺は面白半分に和紙にあの男の名前を書いて、釘を打ち付けた。
作法は分からないが、してはいけない事をしている気分だった。
が、悪い気分では無かった。
『ヒ…オノ…………ナ…タ…』
日に日に明瞭に鳴ってゆく幻聴はどこかで聞いたことがある様な声だった。
『ヒ…オノ…ワ……ナ…タ…』
その声は俺の耳の傍で聞こえる。すぐ傍で…。
『ヒ…オノ…ワバ…ナ…タ…』
遠藤弥一郎が死んだのは俺が藁の人形に釘を打ち込んだ翌日だった。
テレビを見ていた俺は遠藤が殺された事を知り、ゴミ箱に捨てた藁の人形を拾った。
藁の人形が嗤っていた。
幻聴が頭の中に染み入る。
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタ…』
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタツ』
『ヒ…オノロワ…アナフタツ』
俺の耳元で、死んだ遠藤弥一郎の声がはっきりと響いた。
『人を呪わば穴二つ!!』
「手口は一緒ですね」
「ああ」
胸から血を流して死んでいる佐山克人の死体を見下ろして、若い山田が初老の阿久津に言った。
「カルト団体…ですかね」
「ん?」
「あの藁人形」
「ああ。…それも視野に入れて捜査したほうがいいな。」
「マスコミには」
「まだ伏せとけ」
「はい」
これで凶器の無い殺人事件は三件目だった。
共通点は、死因が鋭利な刃物による胸部裂傷である事と、殺人現場に残された藁人形だった。
午後11時。
いつも帰りは遅い。
最近バイトの娘が辞めたから、皺寄せが私に来る。
疲れたな…。
アパートの外付け階段を上がると、一番奥が私の部屋だ。
その私の部屋のドア前に、小包が置かれていた。
『…オノ……………』
夜になると聴こえてくる。
殺人事件の報道をテレビで見ると、ときおり被害者の顔写真と名前と年齢が画面に映し出される。
俺はそれを見る度に、知人の顔がそこに有ったらどう云う気持ちになるのだろうと思っていた。
「……会社員、遠藤弥一郎さんが胸を刺され、自宅の寝室で発見されました。先月起こった御津市の事件と手口が似ている為、同一犯の犯行とみて警察は…」
遠藤弥一郎さん(38)。
俺は遠藤の顔写真が映っているテレビ画面を呆然と見ていた。
遠藤が、殺された…。
遠藤は嫌な男だった。
アイツは俺の直属の上司で、よく一緒に営業で外回りをした。
最新型コピー機『PXV-Ⅰ 850シリーズ』のカタログを持って市内の会社、事務所を二人で回った。
機の説明をするのは俺の役目で、薦めるのが遠藤の役回りだった。
遠藤は嫌な男だった。
軽い口調と柔和な笑顔で接客し、一歩外に出ればさっきまで親しげに商談をしていた者の悪口を言い嘲笑う。
「あの男、ありゃあ出世しないな。声に覇気がない。受け答えもバカ丸出しだったしな。低学歴の部落出身者だぜ」
最低な男だ。
特にけなす所が見つからなければ、決まって、
「アイツにはオーラが無い」
と言って嗤った。
遠藤は嫌な男だった。
時々、俺を呑みに誘った。
一度呑みに行った時、もう二度とコイツとは行かないと思った。
遠藤の話しは始終悪口に尽きた。
社の内外を問わず、遠藤は罵り続けた。
きっと俺の居ない所で俺の影口を叩いているに違いない。
何度か誘いを断ってはいたが、いつまでも断り続ける事も出来い。
最後に呑んだときに、遠藤はポツリとこんな事を言った。
「最近、耳がおかしいんだよ」
「病院に行ったらいいんじゃないですか?」
『……オノ…………ナ………』
夜になると聴こえる幻聴は日に日に明瞭に鳴ってゆく。
俺は一日中アパートに篭り布団の中で耳を塞いだ。
『……オノ…………ナ…タ…』
今日で会社を休んで2日目だ。
その郵便物が届いていたのは日曜日だった。
インスタント食料を買いに近くのコンビニへ行き、戻ってくるとドアの下に小筒が置かれていた。
手のひら二つ分の大きさの小包だった。
差出人は不明だが受取人の欄に俺の名が書かれていた。
藁の人形と太い釘。
細長い和紙と細い竹筆。
小ぶりの硯と少量の墨が入った小瓶。
小包に入っていた物を取り出した。
説明書らしき物は入っては居なかったが、それが何に使う物なのかは見当がついた。
こういう冗談は嫌いではない。
俺は面白半分に和紙にあの男の名前を書いて、釘を打ち付けた。
作法は分からないが、してはいけない事をしている気分だった。
が、悪い気分では無かった。
『ヒ…オノ…………ナ…タ…』
日に日に明瞭に鳴ってゆく幻聴はどこかで聞いたことがある様な声だった。
『ヒ…オノ…ワ……ナ…タ…』
その声は俺の耳の傍で聞こえる。すぐ傍で…。
『ヒ…オノ…ワバ…ナ…タ…』
遠藤弥一郎が死んだのは俺が藁の人形に釘を打ち込んだ翌日だった。
テレビを見ていた俺は遠藤が殺された事を知り、ゴミ箱に捨てた藁の人形を拾った。
藁の人形が嗤っていた。
幻聴が頭の中に染み入る。
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタ…』
『ヒ…オノ…ワバ…ナフタツ』
『ヒ…オノロワ…アナフタツ』
俺の耳元で、死んだ遠藤弥一郎の声がはっきりと響いた。
『人を呪わば穴二つ!!』
「手口は一緒ですね」
「ああ」
胸から血を流して死んでいる佐山克人の死体を見下ろして、若い山田が初老の阿久津に言った。
「カルト団体…ですかね」
「ん?」
「あの藁人形」
「ああ。…それも視野に入れて捜査したほうがいいな。」
「マスコミには」
「まだ伏せとけ」
「はい」
これで凶器の無い殺人事件は三件目だった。
共通点は、死因が鋭利な刃物による胸部裂傷である事と、殺人現場に残された藁人形だった。
午後11時。
いつも帰りは遅い。
最近バイトの娘が辞めたから、皺寄せが私に来る。
疲れたな…。
アパートの外付け階段を上がると、一番奥が私の部屋だ。
その私の部屋のドア前に、小包が置かれていた。
2008年02月03日
『思い出はゴミ箱に』 4
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『思い出はゴミ箱に』 3
『思い出はゴミ箱に』
4
アタシのフェンディは18時を過ぎていた。
『かふぇ サラスヴァティー』の壁に掛かっているシンプルな木目調の柱時計も18時を過ぎていた。
三杯目のモンスーン・マラパールはカップの半分を残して冷め始めている。
カフェの入り口のドアに備え付けてある鈴が囀る度に、ドアを見る。
出入りするのは見知らぬ人ばかり。
もう帰ろう。
遅れ人を責める気持ちは無かった。
むしろ、会えなかった事に安堵していた。
「ぜったい会っちゃ駄目だよ、メグミ」
ミチコの言葉を思い出しながら、アタシは卓上メモに書かれた9桁の数字を見ていた。
サオリから教えてもらったシンジの電話番号。
この9桁の数字の向こうにシンジはいる。
アタシは7桁まで番号を押して消した。
会ってどうするの?
ちゃんと別れを告げずに逃げるように去って行った男だよ?
ソファに寝転がってテレビを見る。
歌番組だった。
メテオストライクスと云うパンクロックバンドが英語なのか日本語なのか判別不能な歌を歌っている。
トモミが今一番お気に入りのパンクロックバンドだ。
テレビを消した。
深夜の2時は静寂だ。
時折、バイクの走る音が遠くで聞こえる以外は。
アタシは再び携帯電話と卓上メモを取った。
8桁まで一気に番号を押す。
そして間をおいて9桁目を付け足した。
後は発信ボタンを押すだけ。
「はい」
不機嫌で不明瞭なシンジの声が電話の向こうから聞こえた。
時刻は深夜2時。
寝ていたのだろう。
「あの」
「!メグミ?」
「…うん」
八年ぶりの会話だった。
シンジは八年ぶりなのに、一言でアタシの事に気づいてくれた。
話し終わって携帯電話の通話時間を見たら58分も経っていた。
10分くらいしか経っていない様な気がしていたのに。
逢いたいと言われた。
会いたいじゃなくて、多分、逢いたい。
渡したい物があるから。
昔、よく行っていたあのカフェで。
明日の18時に。
逢いたいと言われた。
逢いたいって。
言われちゃった。
つづく
『思い出はゴミ箱に』 3
『思い出はゴミ箱に』
4
アタシのフェンディは18時を過ぎていた。
『かふぇ サラスヴァティー』の壁に掛かっているシンプルな木目調の柱時計も18時を過ぎていた。
三杯目のモンスーン・マラパールはカップの半分を残して冷め始めている。
カフェの入り口のドアに備え付けてある鈴が囀る度に、ドアを見る。
出入りするのは見知らぬ人ばかり。
もう帰ろう。
遅れ人を責める気持ちは無かった。
むしろ、会えなかった事に安堵していた。
「ぜったい会っちゃ駄目だよ、メグミ」
ミチコの言葉を思い出しながら、アタシは卓上メモに書かれた9桁の数字を見ていた。
サオリから教えてもらったシンジの電話番号。
この9桁の数字の向こうにシンジはいる。
アタシは7桁まで番号を押して消した。
会ってどうするの?
ちゃんと別れを告げずに逃げるように去って行った男だよ?
ソファに寝転がってテレビを見る。
歌番組だった。
メテオストライクスと云うパンクロックバンドが英語なのか日本語なのか判別不能な歌を歌っている。
トモミが今一番お気に入りのパンクロックバンドだ。
テレビを消した。
深夜の2時は静寂だ。
時折、バイクの走る音が遠くで聞こえる以外は。
アタシは再び携帯電話と卓上メモを取った。
8桁まで一気に番号を押す。
そして間をおいて9桁目を付け足した。
後は発信ボタンを押すだけ。
「はい」
不機嫌で不明瞭なシンジの声が電話の向こうから聞こえた。
時刻は深夜2時。
寝ていたのだろう。
「あの」
「!メグミ?」
「…うん」
八年ぶりの会話だった。
シンジは八年ぶりなのに、一言でアタシの事に気づいてくれた。
話し終わって携帯電話の通話時間を見たら58分も経っていた。
10分くらいしか経っていない様な気がしていたのに。
逢いたいと言われた。
会いたいじゃなくて、多分、逢いたい。
渡したい物があるから。
昔、よく行っていたあのカフェで。
明日の18時に。
逢いたいと言われた。
逢いたいって。
言われちゃった。
つづく
2008年02月02日
僕はそういう男です。
僕はエドワード・ゴーリーと云う絵本作家が大好きです。
が。
「エドワード・ゴーリーが好きなんですよぅ」
と言う人とお友達にはあまりなりたくありません。
エドワード・ゴーリーはそういう絵本作家です。
僕は韓非子と云う中国の思想家が好きです。
が。
「韓非子は座右の書なんですよぅ」
と言う人とお友達にはあまりなりたくありません。
韓非子はそういう書物です。
僕は僕で良かったと思います。
僕が僕ではなかったら絶対に友達にはなりたくありません。
僕はそういう男です。
2008年02月01日
ニーラカーラ物語 二夜 【巨人と小鳥】
二夜 【巨人と小鳥】
ニーラカーラ島の伝説。
昔、むかしの大昔。ある村に愚鈍だが力持ちの巨人がいた。
巨人は村人の為に潅漑用水を引き田畑を作った。
巨人は村人の言う事は何でも聞きよく働いた。
ある日、此の村に旅の占い師がやってきた。
占い師は言った。
あの巨人を始末せよ。
さもなければ惨劇が起こる。と。
村人達は名も知らぬ占い師の不吉な予言に初めは寛容に笑いで受け止めた。
しかし、その予言がしつこく繰り返されると嫌悪感を持った。
村人達は占い師を村から追いやった。
あの巨人は我々の守り主なのだ。
村人は巨人を敬愛し、巨人の為に毎日穀物を捧げた。
その穀物を目当てに山の小鳥達はいつも巨人の周りを飛び回っていた。
巨人は惜しげもなく小鳥達に穀物を分け与え、自分は一口も食べなかった。
神のごとき不思議な巨人だった。
巨人は小鳥達の為にも働いた。
小鳥達の巣作りをしたり、鷹や梟等の天敵から守ったり。
小鳥たちはお礼に、巨人の耳元で歌を歌った。
巨人は小鳥達の歌が大好きだった。
やがて小鳥達は代を重ねるうちに巣作りを忘れ、餌探しもしなくなった。
毎日、巨人の為に歌って暮らした。
巨人さえいれば事は足りた。
そして小鳥達はこの素晴らしい巨人を自分たちの物にしようと考えた。
そのためには我が物顔で巨人を使う人間が邪魔だった。
人間さえいなければ…。
小鳥達は巨人から貰った穀物をつつきながらそう思った。
ある日、小鳥達は歌うのを止めた。
巨人は訳を尋ねた。
小鳥達は答えた。
人間に歌声を盗まれたのだと。
巨人は悲しんだ。
巨人は村人達に小鳥達の歌声を返してくれるように懇願した。
村人達は困惑し、小鳥達の歌声など知らないと答えた。
其の事を伝える為に山に入ると、小鳥達が皆、地べたを歩いていた。
巨人は訳を尋ねた。
小鳥達は答えた。
人間に飛び方を盗まれたのだと。
巨人は悲しんだ。
巨人は村人達に小鳥達の飛び方を返してくれるように懇願した。
村人達は困惑し、小鳥達の飛び方など知らないと答えた。
それを聞いた巨人は、村人を一人摘み上げた。
高く高く摘み上げて、落とした。
小鳥達は言った。
人間たちは空を飛ぶ。
飛び方を盗んだから。
空から落とせば羽を出す。
飛び方を盗んだのだから。
落ちた村人はつぶれて死んだ。
狂った!巨人が狂った!
村人達は叫び、或る者は逃げ、或る者は鍬や鋤を手に取った。
村人達に襲われて、巨人は山に向かって逃げた。
逃げながら巨人は思った。
山に行けば小鳥達が狂った村人達に殺されると。
山には行けない。
小鳥達を狂った村人から守らなければ。
巨人は泣いた。
おんおん泣いた。
泣きながら村人を踏み潰した。
踏み潰してはまた泣いた。
やがて里から村人は逃げ去った。
ついに小鳥達は村人から巨人を奪った。
これで巨人は吾らのものだ。
歌えや踊れや踊れや歌え。
村人が居なくなり穀物を作る者が居なくなった。
そして、小鳥達は飢えて死んだ。
独り残った巨人はおんおん泣きながら大きな岩になった。
今でも、ガンダリ山にある巨人岩は裂け目から滾々と湧き水が出る。
ニーラカーラ島の伝説。
昔、むかしの大昔。ある村に愚鈍だが力持ちの巨人がいた。
巨人は村人の為に潅漑用水を引き田畑を作った。
巨人は村人の言う事は何でも聞きよく働いた。
ある日、此の村に旅の占い師がやってきた。
占い師は言った。
あの巨人を始末せよ。
さもなければ惨劇が起こる。と。
村人達は名も知らぬ占い師の不吉な予言に初めは寛容に笑いで受け止めた。
しかし、その予言がしつこく繰り返されると嫌悪感を持った。
村人達は占い師を村から追いやった。
あの巨人は我々の守り主なのだ。
村人は巨人を敬愛し、巨人の為に毎日穀物を捧げた。
その穀物を目当てに山の小鳥達はいつも巨人の周りを飛び回っていた。
巨人は惜しげもなく小鳥達に穀物を分け与え、自分は一口も食べなかった。
神のごとき不思議な巨人だった。
巨人は小鳥達の為にも働いた。
小鳥達の巣作りをしたり、鷹や梟等の天敵から守ったり。
小鳥たちはお礼に、巨人の耳元で歌を歌った。
巨人は小鳥達の歌が大好きだった。
やがて小鳥達は代を重ねるうちに巣作りを忘れ、餌探しもしなくなった。
毎日、巨人の為に歌って暮らした。
巨人さえいれば事は足りた。
そして小鳥達はこの素晴らしい巨人を自分たちの物にしようと考えた。
そのためには我が物顔で巨人を使う人間が邪魔だった。
人間さえいなければ…。
小鳥達は巨人から貰った穀物をつつきながらそう思った。
ある日、小鳥達は歌うのを止めた。
巨人は訳を尋ねた。
小鳥達は答えた。
人間に歌声を盗まれたのだと。
巨人は悲しんだ。
巨人は村人達に小鳥達の歌声を返してくれるように懇願した。
村人達は困惑し、小鳥達の歌声など知らないと答えた。
其の事を伝える為に山に入ると、小鳥達が皆、地べたを歩いていた。
巨人は訳を尋ねた。
小鳥達は答えた。
人間に飛び方を盗まれたのだと。
巨人は悲しんだ。
巨人は村人達に小鳥達の飛び方を返してくれるように懇願した。
村人達は困惑し、小鳥達の飛び方など知らないと答えた。
それを聞いた巨人は、村人を一人摘み上げた。
高く高く摘み上げて、落とした。
小鳥達は言った。
人間たちは空を飛ぶ。
飛び方を盗んだから。
空から落とせば羽を出す。
飛び方を盗んだのだから。
落ちた村人はつぶれて死んだ。
狂った!巨人が狂った!
村人達は叫び、或る者は逃げ、或る者は鍬や鋤を手に取った。
村人達に襲われて、巨人は山に向かって逃げた。
逃げながら巨人は思った。
山に行けば小鳥達が狂った村人達に殺されると。
山には行けない。
小鳥達を狂った村人から守らなければ。
巨人は泣いた。
おんおん泣いた。
泣きながら村人を踏み潰した。
踏み潰してはまた泣いた。
やがて里から村人は逃げ去った。
ついに小鳥達は村人から巨人を奪った。
これで巨人は吾らのものだ。
歌えや踊れや踊れや歌え。
村人が居なくなり穀物を作る者が居なくなった。
そして、小鳥達は飢えて死んだ。
独り残った巨人はおんおん泣きながら大きな岩になった。
今でも、ガンダリ山にある巨人岩は裂け目から滾々と湧き水が出る。
2008年02月01日
『恋は煙の如く』1
『恋は煙の如く』1
可愛いとよく言われる。
自分でもそう思う。
「ねぇ、行く?」
「え?何処に?」
知らないフリをして聞き返した。
オフィスの給湯室で、ユキとマナミが今晩の合コンの事で盛り上がっていた事は知っている。
「ゴ・ウ・コ・ン」
ゴ・ウ・コ・ン。なんてわざわざ区切って言うユキの事を馬鹿はいいなぁ、気楽で。
と思いながら、
「え、行く行く」
と調子を合わせて私は言った。
三回に一回の割合で、合コンやら食事やらのお誘いは受けるようにしている。
人間関係にヒビを入れてまで断り続けるのは得策じゃない。
今日はその三回目だ。
「ドコでやるの?」
「ん~~とね、ドコだっけ」
「ほら、あそこよ、石千寺の駅前の『グステーヴォレ』」
「え~、高いんじゃない?」
「だって、向こうの指定だもん。おごりよ、オ・ゴ・リ」
「ま、『グステーヴォレ』だったらDランクまで許す」
「え~、Bランクは欲しいよー」
「それは贅沢だよ、ユキー。でも、Aランク揃いだったら最高だね」
「ね~」
馬鹿は気楽で可愛い。
お昼休みは屋上に居る。
会社の屋上はソーラーパネルやらタンクやらで埋め尽くされて、本来ならば休憩できるような場所じゃない。
だけど、私はここでお昼を休む。
人が居ないから。
もう27になるのに、中学生や高校生に見間違われる程の童顔な私にタバコは似合わない。
親友のメグミに
「私たちはもう慣れたけどさー、トモミがタバコを吸うとドキッってしちゃうよ、知らない人は。なんか、子供に吸わせてるみたいでさー」
と言われた事をバージニアを吸いながら思い出していた。
なので、私は人目を偲んでここでタバコを吸う。
給湯室の裏口扉から容易に屋上に登れる設計のお陰で、私は我慢する事なく隠れてタバコが吸える。
この会社に入って1年が過ぎるけど、私が喫煙者である事は誰も知らない。
お昼休みが終わって、四時間後にはお仕事も終わった。
ユキとマナミと私とその他三名の計六名は、半分に分かれてタクシーで石千寺の駅前の『グステーヴォレ』へ向かった。
ユキとマナミとその他三名の計五人は、すでに今日のスケジュールに合コンが入っていたらしく、それなりの装い。
今日の私は、会社に行って帰りにコンビニに寄る予定だったので、そのような装い。
高級イタリアレストラン『グステーヴォレ』に入ると、六人の男達がにこやかに座っていた。
その中に、シンジがいた。
親友のメグミの、元彼。
メグミを捨ててロスに行った男だ。
可愛いとよく言われる。
自分でもそう思う。
「ねぇ、行く?」
「え?何処に?」
知らないフリをして聞き返した。
オフィスの給湯室で、ユキとマナミが今晩の合コンの事で盛り上がっていた事は知っている。
「ゴ・ウ・コ・ン」
ゴ・ウ・コ・ン。なんてわざわざ区切って言うユキの事を馬鹿はいいなぁ、気楽で。
と思いながら、
「え、行く行く」
と調子を合わせて私は言った。
三回に一回の割合で、合コンやら食事やらのお誘いは受けるようにしている。
人間関係にヒビを入れてまで断り続けるのは得策じゃない。
今日はその三回目だ。
「ドコでやるの?」
「ん~~とね、ドコだっけ」
「ほら、あそこよ、石千寺の駅前の『グステーヴォレ』」
「え~、高いんじゃない?」
「だって、向こうの指定だもん。おごりよ、オ・ゴ・リ」
「ま、『グステーヴォレ』だったらDランクまで許す」
「え~、Bランクは欲しいよー」
「それは贅沢だよ、ユキー。でも、Aランク揃いだったら最高だね」
「ね~」
馬鹿は気楽で可愛い。
お昼休みは屋上に居る。
会社の屋上はソーラーパネルやらタンクやらで埋め尽くされて、本来ならば休憩できるような場所じゃない。
だけど、私はここでお昼を休む。
人が居ないから。
もう27になるのに、中学生や高校生に見間違われる程の童顔な私にタバコは似合わない。
親友のメグミに
「私たちはもう慣れたけどさー、トモミがタバコを吸うとドキッってしちゃうよ、知らない人は。なんか、子供に吸わせてるみたいでさー」
と言われた事をバージニアを吸いながら思い出していた。
なので、私は人目を偲んでここでタバコを吸う。
給湯室の裏口扉から容易に屋上に登れる設計のお陰で、私は我慢する事なく隠れてタバコが吸える。
この会社に入って1年が過ぎるけど、私が喫煙者である事は誰も知らない。
お昼休みが終わって、四時間後にはお仕事も終わった。
ユキとマナミと私とその他三名の計六名は、半分に分かれてタクシーで石千寺の駅前の『グステーヴォレ』へ向かった。
ユキとマナミとその他三名の計五人は、すでに今日のスケジュールに合コンが入っていたらしく、それなりの装い。
今日の私は、会社に行って帰りにコンビニに寄る予定だったので、そのような装い。
高級イタリアレストラン『グステーヴォレ』に入ると、六人の男達がにこやかに座っていた。
その中に、シンジがいた。
親友のメグミの、元彼。
メグミを捨ててロスに行った男だ。



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