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2010年09月10日

俺だけのヴィーナス

 
朝、目覚めると右の手の甲に眼が出来ていた。
目覚めたばかりで一瞬事態が飲み込めなかった俺は、もう一度、手の甲を確かめた。
そこには間違いなく小さな眼がポツンと出来ていたのだ。
昨日、飲みすぎたか。
いや、飲みすぎたからと言って手の甲に眼が出来るなんて、そんな話は聞いたことが無い。
睫が長いところを見ると女性のようだった。
少し垂れ気味の目尻、太くも無く細くも無く整った眉毛。
瞳だけ見ればすこぶる美人だ。
眼の形から推測するに恐らく右目だろう。
俺は長い睫を引っ張ってみた。
痛みがチクチクと手の甲に走る。
もしかしたら作り物の目を誰かが俺の手の甲に貼り付けたかもしれないと思ったが、そもそも一人暮らしだから、そんな事をする奴はいない。
手の甲にくっついている眼は、シパシパと瞬きをして、涙腺からツツツツと涙をながした。
睫を引っ張ったのが痛かったのだろうか。
それを見た俺は、なんだか悪いことをしたような気持ちになった。
しかし、いくら美人の瞳だからと言って手の甲に出来るのは異常だ。
何かの病気かもしれない。
今日は会社に行かなくては成らないから取りあえず包帯で隠すとして明日、病院へ行こう。

二日目、いつもの時間に目が覚めた。
すぐさま、右の手の甲を見た。
眼が二つに増えていた。
今度は左側の眼だった。
両目が揃うと、ますます美人だった。
その潤んだ両の眼で俺を見つめている。
明らかにこの瞳は俺を意識している。
なぜならば右目が俺にウインクをしたからだ。
明日になれば鼻が出来るかもしれない。
きっと、すらっと鼻梁が整った美しい鼻に違いない。
その次の日には桜の花びらのような小さくて可愛らしい唇が出来るだろう。
そうなれば、ようやく俺は彼女と話ができる。
いや、まて。
その前に耳が出来なくては俺の声を聞くことが出来ないか。
最初に右目が出来て、今日、左目ができた。
明日は鼻が出来て、明後日は口。
その次は右耳、そして左耳。
最後に髪の毛。
順番は解らないが、とにかく一週間で、ようやく彼女は完成する。
早く会いたいよ、俺だけのヴィーナス。
俺は将来、唇が出来るであろう場所にそっと口付けをした。
彼女の両目が嬉しそうに潤んだ。

三日目。
いつもの時間より早く起きた俺は直ぐに右手をみた。
手の甲には・・・。
三つ目の眼が出来ていた。

そして、今日で一週間。
俺の右手には七つの目玉が付いている。


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Posted by koujun at 20:10│Comments(2)小説
この記事へのコメント
我那覇さん。こんばんは

この作品、面白いです。
また来ますネ。
Posted by 苺 at 2010年09月11日 01:24
コメント有り難う御座います。
励みになります。
Posted by koujunkoujun at 2010年09月12日 09:37
 
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