2011年09月27日
ふるさと
12年ぶりに故郷に帰ってきた。
村を取り囲む山々も、小川のせせらぎも、何も変らない。
昔のままだった。
田んぼの稲もすくすくと育っている。もうすぐ収穫の季節だ。なつかしいな。
やあ!大宮のおじさん!覚えていますか?僕です。
トラクターの整備をなさっているんですか?そういえば昔、おじさんのトラクターを勝手に運転して、木にぶつけちゃいましたね。
あの時は本当にごめんなさい。おじさんのげんこつ、いまでも覚えています。僕はこの村に帰ってきました。大宮のおじさん、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは、松屋のおばあちゃん!覚えていますか?僕です。
もう駄菓子屋さんはやっていないんですか?
そうですか。残念です。
そういえば、僕はよくおばあちゃんのお店で万引きをして、木製の定規で叩かれたっけ。
あれは本当に痛かった。あの時は本当にごめんなさい。
でも、一度だけ、何も盗んでいないのに、疑われて叩かれた事があったんですよ、知っていますか?
僕はこの村に帰ってきました。松屋のおばあちゃん、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは、御堂條(みどうすじ)先生!覚えていますか?僕です。
学校にいかなくてもいいんですか?
そうですか。定年ですか。長い間お疲れ様でした。
そういえば、僕が飼育小屋の鶏を全部売りさばいた時、先生は理由も聞かずに何どもひっぱたきましたよね。
あの時は本当にごめんなさい。
貧乏人は耐えるしかなかったんですよね。
僕はこの村に帰ってきました。
御堂條先生、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは、ハナちゃんのお父さん。
覚えていますか?僕です。
ハナちゃんは元気ですか?え?村を出て行ったんですか。
そうですよね。この村には働く場所がない。若者はみんな村を出ていく。
でも、僕は帰ってきましたよ。
そういえば昔、僕とハナちゃんが付き合い始めた頃、あなたは僕をボコボコにしましたよね?
覚えていますか?
本当はハナちゃんの方から告白してきたんですよ?
好きだと言うから付き合ってあげたんです。
どうしたんですか?そんな顔をして。これですか?
これはナタです。
けっこう重いですよ。
でも、これくらい重くないといけないんです。
一発で頭蓋骨を叩き割るには、これくらい重たくないといけないんですよ。
僕はこの村に帰ってきました。
ハナちゃんのお父さん、………さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
やあ、こんちには、村長さん!
お元気そうでなによりです。
覚えていますか?
僕です。
作 我那覇孝淳(C)
Posted by koujun at 15:42│Comments(0)
│小説
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