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2017年03月18日

内臓が生みだす心




『内臓が生みだす心』完読。

心や精神がどこに宿るのかを解明するには、生命とは何かをまず正しく理解しなくてはならない。
さらに生命のうちでも、人間の所属する哺乳動物を含む脊椎動物の進化が、どのような法則によって起こっているのかが、はっきり分からないことには心や精神のありかなど、とうていわかるはずがない。

心は、そして精神はどこから発するのか。
それを人類の進化とともに探ってゆく本です。

心臓と肺を同時に移植されたクレア・シルビアの心がドナーの若い男性の心に替わってしまった。

メクラウナギの脳をラットに移植するとこに成功したが、ラットの行動様式はまったく変化せずに半年も平然と生き続けた。

なぜ臓器移植した女性の心が変わったのか。
なぜ異種族の脳を移植したラットはラットのままでいたのか。

結論からいえば、心は細胞に宿る。
しかも脳細胞ではない。
脳は単なる生体電気信号の受発信機で心は心臓に肺に、そして腸などの各臓器の細胞に宿る。

脳や心臓の機能を持たない動物は存在するが腸機能を持たない動物は存在しない。

脊椎動物の全ての臓器は腸から進化した。

故に心や精神の本幹は腸にある。

「不思議ですね」
女子高生の美希は顕微鏡を覗きこんで呟いた。

「そうでしょ?意思を持ってるみたいでしょう?」
研究員の大滝が得意げに言う。

美希が顕微鏡で覗き見ているものは細菌だ。
細菌がブドウ糖の粒に群がっている様子を興味深くみている。

「細菌はね、ブドウ糖のような栄養分子には近づくしフェノールのような危険物質は避ける。その現象を走化性、またはケモタキシスというんです。惹きつけられる場合を『正の走化性』と呼んで、避ける場合を『負の走化性』と呼ぶ」
「へぇ、凄いですねー」


大滝の説明に美希は感心して相槌を打つ。
美希は生物の研究者になるという、しっかりとした人生の目標を持っていた。

だから生物学の権威、琵琶バイオ大学が研究室を解放して一般向けに『生物学フォーラム』を開催し参加者の募集を出したときに迷いはなかった。

「精子が卵子に一直線に向かっていくのもケモタキシスなん」
そこまで言って大滝は言葉を呑んだ。
うわ!女子高生に精子とか言っちゃた!
と思ったのだ。

顕微鏡から片目を離さない美希は、そんなことは意に介さない。
「へぇ、そうなんですかぁ」
と感心するばかり。

一人で勝手に焦る大滝。
「こ、このケモタキシスはね、言ってみれば好きとか嫌いとかを判断している機能なんだよ。心の機能と言ってもいい。心というのは極端に言えば好きか嫌いかを決めることだと僕は思うんだ。そう言った意味で細菌にだって心はあると、僕は思うんだ」
「細菌にも心…」
このとき美希は初めて顕微鏡から片目を離した。
そして、しっかりと大滝を見つめて
「素敵ですね」
と微笑んだ。

美希と大滝の細胞が正の走化性を発現するのか。
それはまた別の話。



Posted by koujun at 23:10│Comments(0)
 
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