てぃーだブログ › 我那覇孝淳の『ありふれた日々』

【PR】

  

Posted by TI-DA at

2017年05月05日

死体洗いのアルバイト


『死体洗いのアルバイト〜病院の怪しい噂と伝説〜』完読。


医療現場の怪しい伝説や医学の間違った知識の話。

タイトルにある【死体洗いのアルバイト】などというのは実際にはない。
解剖用死体のメンテナンスのバイトを高給につられて始めた主人公の内面を鋭く描いた、大江健三郎の小説『死者の奢り』が元ネタらしい。
もちろん虚構。

他にも膣痙攣で結合したまま病院に運ばれた芸能人の話も嘘。
『膣痙』という病名はあるけれど、それは痙攣のために性行為が上手くいかない状態であって万力のように締めつけるものではない。

尿道マスターベーションをして、オティンテェンの中に鉛筆や箸、ヘアピン、生きたドジョウなどを入れて救急搬送。
これはホントらしい。
恐ろしい。
どうやってオティンテェンの中に入れるんだろう。
生きたドジョウって….。

1990年。
セントルイスである優秀な警察官が抜き打ちのモルヒネ検査で陽性を出した。
この警察官は無実を訴え再調査の結果、麻薬使用の事実はないと判断された。
じつはこの警察官、検査の前日にポピーシード入りのベーグルを四つ食べたのだ。
ポピーシードとは食品用の芥子の実のこと。
そのことが知れ渡り、実際に麻薬を常習しているものがポピーシードを食べまくり、麻薬使用を誤魔化す手法が流行った。
これをポピーシード・ディフェンスという。

それに倣って俺はいつもポピーシード入りの食い物を食っている。
ヤクでキメるのも知識がなけりゃパクられる。
最近ではクックパッドでポピーシード入りのお菓子を作るほどになった。

だから、今のこの状況でもビビっちゃいない。
誰がチクったのかは知らないが、俺は突然現れた警察官に任意同行されてションベンを取られた。

でも大丈夫。
俺は毎日ポピーシードを食っている。
そんな事を考えてるいる間に警察官が戻ってきた。

「麻薬の陽性反応が出たんだが、説明してくれるかな?」

ほらきた。
俺は事実無根を訴えた。
そんな事はない!何かの間違いだ!あ!そうだ!芥子の実だ!最近、芥子の実入りのお菓子を食べたからだ!芥子の実を大量に食べると麻薬検査に引っかかるって聞いたことがあるなぁ!

「もしかして、ポピーシード・ディフェンスの事を言ってるのか?」
「え?なに?ポニーテールリボンズ?」
「惜しい!惜しいなぁ!もうちょいだったのに!」
「な、なにが」
「お前が出した陽性反応はLSDのだよ。合成麻薬。芥子の実は、まったく関係ない。惜しいなー。勉強するんならきちんと勉強せんといかんわな」
  

Posted by koujun at 19:29Comments(0)

2017年05月03日

完全失踪マニュアル


『完全失踪マニュアル』完読。

【ストレスに対処する最良の方法は『日常性をブレークすること』そして『現状から物理的に離れること』である】

僕も過去に一度、プチ失踪をしたことがあるので、その効能はよく分かる。

ストレスの原因がかなり改善される。
なによりも「オレはストレスがたまって弾けそうなんだー!」というアピールが強烈にできる。
そのかわり周りに迷惑をかけるけど。

その節はご心配をおかけしました。

この本は、失踪願望者の手助けをしてくれます。

一ヶ月ていどの軽い家出から、まったく別人になる方法まで網羅してます。

失踪コンサルタント。
それが俺の裏の肩書きだ。
本業は興信所あがりの私立探偵。
失踪者を見つけだすプロが失踪の斡旋をしているってわけだ。

ストレスのない世界があるとするならば、それは死後の世界だ。
そう誰かが言った。
だからと言って人は、そう簡単には死ねない。
自殺するのもストレス。
人は日常のストレスが自殺のストレスを超えたときに、やっと死ねる。

そのストレスを超えないための最後の手段が完全失踪だ。
自分の本当の過去をすて。
自分の本当の未来をすて。
自分の本当の身分をすて。

偽りの過去を、未来を、身分を手に入れて再出発をする。

「借金で自殺するなんて馬鹿げてますよ。よく思いとどまりましたね。安心して下さい」
「はい…」
「銀行やサラ金からの借金の時効は五年です。五年間、逃げ切れば幾ら借りていてもチャラ。いいですか?山本さん。お金なんてね。借りたもん勝ちなんですよ。借金で困る人間は借りた方じゃない。貸した人間なんです。五年間、逃げ切りましょう」
「五年も。耐えられますかね…」
「大丈夫ですよー、山本さん。隠れんぼしてると思えば。大人の隠れんぼ。やったことありますよね?隠れんぼ」
「ええ、昔、子供のころに」
「楽しかったでしょ?遊び感覚で日々を過ごせばいいんですよ。もちろん我々も絶対に見つからないようにサポートしますから」
「はい…よろしくお願いします」
そう言うと失踪依頼者の山本は力なく笑った。

「それじゃあ、話を進めましょうか。山本さんが五年間、隠れるアパートを用意しました。家賃は月一万です。五年分なので六十万になりますが用意できましたか?」
「は、はい。なんとか」
世の中には借金をしている者にも金を貸す連中がいる。
街金は俺が紹介した。
借金はいくら借りても逃げ切ればチャラ。
それを知った山本はそこから二百万借りたらしい。
人間の欲の深さは底がしれない。

後日、山本を家賃一万円の事故物件に放り込んだ。
去年、四十代のニート男が自分の母親を殺した曰く付きの部屋に。

一週間後、山本は闇金の怖いお兄さんに見つかって連れ出された。

俺の本業は私立探偵。
失踪者を見つけだすプロ。
依頼があれば誰でも、どんな事情があろうとも見つけだして報告する。

さて、一部屋六十万のボロアパートが空いた。

また入居者を探さなくては。
でも直ぐに見つかるだろう。
世界はストレスに満ちているのだから。

  

Posted by koujun at 09:14Comments(0)

2017年04月30日

あるニセ占い師の告白

『あるニセ占い師の告白』完読。

アメリカのニセ占い師、ジョン・W・カルヴァーの手記。

人を騙す禁断のテクニックを公開。
ジョン自身がどんな経緯で有名占い師になったのか。
どうやって巨万の富を築いたのか。

という内容のフィクションです。
ジョン・W・カルヴァーという架空の人物の物語を使って人を騙すテクニック【コールド・リーディング】の解説をした本です。

物語調なのでサクサク読めます。

コールド・リーディングとは「トリックや話術を駆使して相手の現在・過去・未来を占ったように錯覚させる技術」のこと。

ちなみに、相手の情報を事前に集めてするのはホット・リーディング。

「占いにくるカモは人生の言い訳を探している。自分で決断することから逃げ、自己責任を回避しようとする無意識のズルさを兼ね備えている。自分のズルさを正当化する言い訳を求めている。そのズルさを見抜け。そのズルさを肯定しろ。そうすればカモはいくらでも金をだす」

伝説のコーリドリーダー、ジョン・W・カルヴァーはそう言った。
俺はその伝説の元でコーリドリーディングを学んだ。
ジョン・W・カルヴァーが最後に弟子にしたのが、この俺だった。

「ちょっと手の平を視てもいいかな?右手を。んー。………気になってる人がいますか?」
「え?」

今日のカモは20代の女性だ。
人間の悩みは四種類しかない。
人間関係、金銭関係、健康問題、将来の夢。
そのどれか一つのカテゴリーを言い当てればいい。
たった4分の1の確率。
若い女性の悩みは、ほぼ人間関係か将来の夢。
つまり恋愛だ。

気になってる人がいますか?
と聞いてカモは高い音程で「え?」と言った。

それは「え?どうして分かったの?」を意味する。
このカモは誰かに恋慕している。

返答に間があったり、低い声で「え?」と返答した場合は的が外れたことを教えてくれる。
そのときは
「何か困ってる人が、あなたの周りにいるはずです。例えばお金に困っていたり、あるいは病気の人が」
と金銭関係か健康問題にシフトすればよい。
なにも、気になってる人が恋愛の対象とは限らない。

「はい、実はプロポーズをされて」
「迷うことはないですよ。受けるべきです」
「そうですか?」
笑顔でカモは答えた。
もしこのとき曇った顔で答えたら。
「そうすれば安定した生活が手に入ります。でも守護霊がなぜか反対していますね。あなた、他にやりたいことがあるんじゃないですか?」
と方向転換をする。

カモが肯定して欲しければ後押しをし、カモが否定して欲しければ引き止める。

カモは笑顔で「そうですか?」と答えた。
つまり結婚に前向きということだ。

「それじゃ、より詳しく視たいので紙に名前と生年月日を書いてくれますか?できれば、あなたが持っている紙とペンで」
「あ、はい」
カモは俺の目の前で無防備にバックを開けペンとメモ帳を取り出した。

俺はわざとカモにペンと紙を出させた。
理由はバックの中身を覗き見るため。
どんな些細な情報でも集める。
集めた情報でカマをかける。
それがコールドリーディングのテクニック。

カモは気づいてはいない。

バックの中に入っていた、高級外車のロゴ入りキーと黒いカードを俺が目ざとく見つけたことを。

清楚で大人しい印象のカモが持っている物にしては不自然だ。

なるほど、男だな。
プロポーズをした男が持たせている可能性がある。
この結婚、何としても成功させよう。
そうすれば、このカモを介してマヌケ男の金が俺に流れ込む。
極上の金ヅルを見つけたぜ。

賀茂野モカが占いの館を出たとき、うっすらと笑みを浮かべいた。
コールドリーダーほどカモにしやすい人種はいない。
人を騙すことに集中して自分が騙されていることにまったく気づかない。

コールドリーダーは信頼性をアピールするために小道具を使う。
そんな基本的なことも忘れている。

バックに入っていた高級外車の鍵や黒いキャッシュカードが本物なのか裏を取ることもしない。

あの男は完全に私の術中にはまった。
私を金の卵を産む鴨だと思っている。
どんなことがあっても私を手放さないだろう。

さて、どの手を使って、あのマヌケから金をむしり取ってやろうか。  続きを読む

Posted by koujun at 00:51Comments(0)

2017年04月27日

俗説 徹底検証


『俗説 徹底検証』完読。

巷に流布する俗説を検証する本。

【青木ヶ原樹海では方位磁石が狂う】
溶岩流の上にできた樹海なので地中に含まれている磁鉄鉱の影響でコンパスが狂うことはあるが方位が分からなくなる程ではない。

【蜂に刺されたらオシッコをかける】
全くのデタラメ。一般的な治療法は抗ヒスタミン剤を含んだステロイド軟膏を塗る

【「板垣死すとも自由は死なず」と彼は叫んだ】
板垣退助、明治の自由民権運のリーダー。1882年、岐阜で遊説中に暴漢に襲われた。その時に発したとされる名高い名セリフ。実は「いたいがーやきぃ、早う医者を」と言った説や演題のタイトルだった説、新聞の見出しだった説があり真相は藪の中。

天皇陛下が国会開設の詔を出して半年がすぎた明治十五年。
自由党党首、板垣退助は日本の未来を見据えていた。
九年後に日本初の国会が開かれる。
その日のために政党を結成し盤石の基礎を築く必要があった。
自由党党首として組織を全国に広めげる必要があったのだ。

その日、板垣は岐阜にて遊説中であった。
四月六日、午後六時半。
遊説を終えた板垣は中教院の玄関を出て苔生した階段を降りていた。

「将来の賊め!天誅を下す!」
突如、一人の暴漢が現れた。
刃渡り九寸の短刀を振りかざして板垣を襲う。
短刀は一直線に板垣の左胸を刺した。
しかし板垣は柔術・呑敵流小具足の使い手である。
胸を刺されながらも暴漢の腹部に当身を行い相手を怯ませる。
右胸に一箇所。
左手に二箇所。
右手に二箇所。
頬に一箇所。
先に刺された左胸を合わせて、計七箇所を負傷を板垣は負った。
それでも倒れるわけにはいかなかった。

余が倒れる時は日本が倒れる時ぞ。

その熱い想いが。
その尊い精神が。
その気高い意志が。
卑劣な暴漢に屈することを許さなかった。

騒ぎを聞きつけた内藤魯一が暴漢を取り押さえた。
気力のみで立っていた板垣は内藤の手助けにより、その場に倒れこんだ。

「板垣さん!大丈夫ですか!」
内藤が叫ぶ。
「板垣!」
板垣退助は眼をカッと見開いた。
「板垣死すとも…自由は死なず!!」
宙を睨みながら板垣は吠えた。
いや、宙ではない。
その視線は遥か先の日本の行く末を見つめていたのだ。

ちなみに、その時の傷は浅く十日後には演説を再開している。
後日、酒の席で板垣は内藤に
「板垣さん。なんでしたっけ、あの時。板垣死すとも〜、のあと。なんでしたっけ?ハイッ!板垣死すとも〜?」
「や、やめろよー、内藤〜」
とイジられたとか。
イジられなかったとか。  

Posted by koujun at 02:44Comments(0)

2017年04月22日

日蓮の本


『日蓮の本』完読。

日蓮の仏教思想は過激で独善的だ。
法華経以外の経典はすべて邪教のたぐいと言い放つ。

「念仏無間、禅天魔、真言亡国、律国賊」

【念仏宗】は法華経を放棄し無間地獄へおちる業因である。

【禅】は教外別伝と称し経典を持たず権力に取り入ろうとする天魔の法である。

【真言宗】の祈祷は天変地異による災害になに一つ験をなさず、まさに国亡の祈祷である。

【律宗】は貧者を救済するといいながら、その慈善事業のための資財集めは貧しい者の犠牲を強いている。

法華経の他に民衆を救う法はない。
法華経こそが釈迦の本懐の法である。

それ以外の教説は一切認めない。
認めないどころか徹底的に攻撃する。

苦手だなぁ、こういう人。
日蓮さんとはお友達になりたくない。

蓮長は思い悩んでいた。
ひとつの疑問が彼を悶々とさせていた。
「仏法は釈迦ひとりから出でたる教えであるのに、何故に多くの宗派が醜く優劣をあらそっているのだろう。天台宗が真の法であるのか。であれば真言宗は禅宗は律宗は浄土宗は偽の法であるのか。真言宗が真の法ならば天台宗、禅宗、律宗、浄土宗は偽の法なのか。禅宗が真の法ならば天台、真言、律、浄土はすべて邪教なのか。他にあるはずだ。釈迦の本懐の法が。唯一の真理を示す法が!」

ただ一つの真理の法。
蓮長は清澄寺のすべての経文を紐解き、その答えを探し求めた。
得た答えは清澄寺には真理の法はないということだけだった。

暦仁元年、蓮長は清澄寺を下り比叡山へ上る。
延暦寺で研鑽をつむこと数年。
蓮長はついに法華経と出会う。
法華経を読み進めるうちに蓮長は滂沱の涙を流していた。

これこそが!
この経文こそが!
この法華経こそが!
あまねく人々を救う唯一の法である!
法華経こそが釈迦の本懐の法である!

釈迦入滅より幾重にも枝別れた仏法はすべて法華経に収斂されるべきなのだ!

のちに日蓮と名を改め日蓮宗を世に生みだす蓮長。
しかし彼は知る由もなかった。
唯一絶対の法だと信じた法華経。
その教えを流布するために立宗した日蓮宗は彼の死後、わずか六年で分裂し様々な新興宗教を産み落とす母胎となった。

なんとも皮肉な話である。

  

Posted by koujun at 07:48Comments(0)

2017年04月19日

黒のトリビア


『黒のトリビア』完読。

警察では放火のことを「赤馬」という。

刑法には痴漢そのものを罰する条文はない。

スープの出汁に手首を煮込んだラーメンが売られていた。

首吊り(縊死)の実行には全体重の20%程度の重量があれば事足りる。
必ずしも両足が床から浮く必要はない。

など、刑事犯罪の裏の豆知識がぎっしり。

【痴漢、あかん!オカンが泣くで!】
と書かれた中吊り広告を見て俺はもう一度視線をおろした。
目の前に立っている男が、さらにその前に立っている女性のお尻を右手で撫でている。

電車はゆるやかなカーブを曲がろうとしていた。

義を見てせざるは勇無きなり。
いまは亡き父の口癖だ。

その座右の銘を思い出したと同時に俺は痴漢男の右手を取っていた。

痛がり喚く男を無視してタイミングよく開いた電車のドアからホームに出た。
当然、痴漢男の右腕を捻り上げたままで。
被害に遭った女性にも声をかけ一緒に降りてもらった。

駆けつけてきた駅員に事の次第を話す。
「触ったんですか?」
駅員は痴漢男にたずねる。
触ってません。
などと言おうものなら、もっときつく右腕を捻り上げてやろうと身構えた。

「はい。確かに触れました。だけど下手に動かすと怪しまれると思って手の甲を外すチャンスをうかがっていたんです。そしたらいきなり」
「手の甲?嘘をつくな!」
俺は痴漢男の関節を捻じ曲げる。
言葉にならない呻きをあげる痴漢男。

「駅員さん、警察を呼んで下さい。こいつを痴漢罪で捕まえてもらいます!」
「痴漢罪?痴漢罪ってなんですか!」

痴漢男が叫んだ。

「日本の法律に痴漢罪なんてものはない!痴漢を取り締まる法は強制わいせつ罪か市の条例だけ、なんだ、よ!」

痴漢男は腕を振りほどいて喋りつづける。

「強制わいせつ罪!いつ僕が脅迫や暴力をもちいて猥褻なことをした!?ねぇ!お嬢さん!君は僕に脅されたの?殴られたの?」
「い、いえ。そんなことは」
「しかも痴漢は親告罪だ!しんこくざい!被害に遭ったものが訴えて初めて罰せらる!親告罪!リピートアフターミー!しんこくざい!」
「しんこくざい」
痴漢男の勢いに飲み込まれてリピートする駅員と被害者。

「お嬢さん!あなたは僕を訴えますか!もちろん僕は闘いますよ!地裁、高裁、最高裁!上告、上告で何年も!もし裁判で勝てば今度はあなたを訴えますよ!もうお気づきと思いますが僕は法律に詳しい。ひじょーに詳しい!長いお付き合いになりますな!それでも訴えますか!!」
「あの、私これから合コンがあるんで」
被害者女性は足早に去っていった。

「さて」
痴漢男はゆっくりと俺に向き直った。
「あたたの職業は?」
「俺の?ただの会社員だよ」

痴漢男は俺をじっと見ながら駅員に話しかける。
「警察を呼んで下さい」
「え?でも被害者は、いえ、女の人はもう」
「彼女はもう関係ありません。ここからは僕とこの暴力男との話です」
「暴力男!?」
「あんた、僕の腕を拘束し痛めつけましたね」
「いや、あれはあんたが」
「痴漢したと思ったから逮捕した」
「そう!逮捕したんですよ!」
「逮捕できるのは逮捕権をもった者だけだ!あんた持ってるのか!逮捕権を!持ってないよな!会社員だもんな!一般人が逮捕の真似事をして、相手の自由を拘束した場合、それは逮捕・監禁罪だ!たとえ腕一本でも!」
「え?逮捕?え?なに?」
「逮捕・監禁罪!しかも、あんたは僕の腕を痛めつけた!2度も!これは立派な暴行罪だ!」
「暴行罪って。別に怪我をしたわけじゃ」
「瑕疵の有無は関係ない!たとえ投げた石が当たらなくても暴行罪は成立するんだよ!怪我をさせた場合は傷害罪だ!まて!もしかしたら瑕疵があるかもしれない!」

男は俺に握られた手首を調べ始めた。

「あった!痣になってる!内出血かもしれない!駅員さん!コレ、さっき握られたときの痣だよね!痣!」
「そうですね。けっこう強く握られてたから」
「はい、傷害罪ー!」

義を見てせざるは勇なきにあらず。
義を見てせざるは思慮深きこと也。

いまはそう言う時代です。
父さん。  

Posted by koujun at 10:42Comments(0)

2017年04月12日

山田花子 自殺直前日記



『山田花子 自殺直前日記』完読。

山田花子が自殺の直前まで書きためていた日記。

吉本興業の喜劇女優ではなく漫画家の山田花子の。

統合失調症に苦しみ最後は飛び降り自殺でみずから幕をおろした漫画家。

山田花子が死ぬ直前まで書いていた日記。

言葉には霊力がある。
悪い言葉には人生に悪影響をあたえる。

と本気で信じている言霊信者は読んではいけない本です。
世に対する恨み辛み絶望と嘲笑に満ちてた本です。

『自分の快楽は他人の不幸』

『希望持つから絶望する。人間は不平等で残酷。世界は嘘つき。「私の人生こんなもん」諦めが肝心』

『人は数々の苦しみ乗り越えて、いつか目的地に辿り着けるという幻想を抱いているが、一つの苦しみが終わったらまた次の苦しみがやってきて、死ぬまで続くだけ』

僕が気にいった言葉は
『優しい人とは無意識に差別できる人』

いいなーこれ。
優しい人は差別が上手なんだよなー。
差別の達人と言ってもいい。
気づかれないように差別できる人。
自分が差別していることも気がつかない。

バイトの篠原が辞めた。
深夜勤務専属に割り当てられたからだ。
はんぶん首斬りにちかい形だった。

ハンバーグレストラン『ビッグトロール』は県境の国道に面している。
そのため長距離トラックの休憩地点として利用されている。

深夜の利用客も多い。
そのほとんどがトラックの運転手たちだ。
深夜といえども昼食時と変わらないくらい、あるいはそれ以上に繁盛している。

深夜の客は気の荒い者も多い。
そのため夜勤勤務は正社員が勤めている
バイトが勤務することはまずない。
時給で働く者には割に合わない仕事量だ。

バイトが夜勤勤務になるということは、それは会社からの首斬りを意味する。

篠原は深夜へシフト変更を言い渡されたその日に退職をした。
正確に言えば有給休暇を消費したあとの退職ではあるが。

篠原は評判の悪い男だった。
同僚と金銭問題でいざこざを起こした事もあった。
接客態度でのクレームも多かった。
とにかく嫌われ者だった。

「篠原ってさ」
深夜の繁忙な時間帯をすぎたころ正社員の杉田は同じく正社員の横山に話しかけた。
すると杉田の言葉を横山は遮って言葉を続けた。

「篠原だって、そんな悪いやつじゃないよ。そりゃ言葉遣いは、ぶっきら棒で愛想はわるいよ。だけど、アイツにちゃんと歩み寄らなかった俺らにも非はあるんじゃないかな?たしかにアイツは時間にルーズだし金にもだらしないし。だからと言って、何から何までアイツが悪いと決めつけるのは良くないと俺はもうな」

横山は人の悪口を言わない男だ。
横山は誰にも優しく気を使う男だ。

だけど。
と杉田は思った。

篠原ってさ、ロッカーに置いて行った荷物どおするのかな?辞めて、もうすぐ一週間だぜ?

そう言おうとしただけなのに。
何から何までアイツが悪い。
なんて思っちゃいないのに。

横山は自分の正論に酔いながら食器を洗い始めていた。  

Posted by koujun at 12:50Comments(0)

2017年04月09日

東京の俳優

『東京の俳優』完読。

役者、柄本明の自伝書。

柄本家のルーツからご自身の出生、劇団・東京乾電池結成の話から果ては「演劇」に対する思いまで語っています。

偏屈です。
「観客は敵です。観客と決して仲良くなってはいけない」
というくらい偏屈です。

シャイです。
自分の生い立ちよりもチェーホフの生い立ちを語りたがるくらいシャイです。

そしてやっぱり偏屈です。
いかに面白くない芝居をつくるか。
それを真剣に考えています。

イヨネスコの『授業』という芝居があります。
あらすじはこうです。

自宅にやってきた女生徒に言語学の講義をする老教授。最後に教授は、この女生徒を殺してしまいます。

柄本明は言います。

この『授業』のセリフは絶対に暗記ではいけませんね。これを言う俳優は、このセリフを暗記してはいけないんです。理論として何を言っているのか、さっぱり解らなくてもいいけど、このセリフを完全に理解することによってのみ、主人公である狂気の老教授になれるわけです。

「さて、お嬢さん、スペイン語はすべての新スペイン語の母なる言語であります。すなわち、スペイン語、ラテン語、イタリア語、そしてわれわれのフランス語、ポルトガル語、ルーマニア語、サルジニア・ナポリ語、スペイン語、あるいは新スペイン語の母国語であります。さらにまた、ある観点からすればトルコ語でさえ」

舞台俳優、榎本萌がイヨネスコの戯曲『授業』の台詞稽古を途中でやめたのは、稽古場に研修生が突然現れたからだ。

「あ、すみません」

研修生、西山椎菜は慌ててその場を去ろうとする。

「いや、いい、いい。こっちへ来なさい。忘れ物かね?」
「あ、はい。あの、ちょっと、台本を…」
「そうか」

榎本は幾筋もの深い皺を、さらに深めた。
それが笑い皺のように見えて西山は内心、ほっとした様子だ。
だけど相手は役者歴48年の老練の俳優。
外見と内心が一致しているとは限らない。

「役者が台本の存在を忘れるほどの尋常ではない事態を僕は知らない。何があったんだい?よほどのコトなんだろうね」
「いえ、あの、とくに…べつに…」

榎本の嫌味に西山は身を縮めた。
ボーイッシュにまとめられたショートヘアが小刻みに震えている。
その様子を見た榎本は爆発音に似た笑い声をあげる。
鍛え上げられた肺活量が成せる業だ。

「すまない!すまない!台本を忘れるなんて、しょっちゅうだよ僕は。だから、いつ忘れてもいいように、台本の中身はすべての暗記している。ト書も含めてね。もちろん君も覚えているんだろう?せめて自分のセリフくらいは。だから台本を忘れたんだろう?そうだろう?そうであると言ってくれ」

榎本の笑い皺はさらに深くなった。
西山は泣き出しそうにしている。

「僕はさっきまで何の稽古をしていのかわかるかね」
「…授業…だと思います。…イヨネスコの」
「そう、来月公演する舞台のだ。君はなぜ、あの教授は物語のラストに女生徒をナイフで刺し殺したのだと思う?」
「…すみません。わかりません」
「そう!わからないのだ!いくら台詞を読み込んでもわからない。何十年、何十回とこの舞台を踏んでいるのに!」
「せ、先生!」

榎本の顔からは笑い皺は完全に消えていた。

「だけど、ようやくわかったんだよ。最近になってね!この台詞は分かってはいけないんだよ。理解してはいけない。何故なら、あの老教授も分かっちゃいないのだから!わけの分からないうちに!理性のタガが外れた途端に!気がつけば女生徒をナイフで刺していた!僕は理解してはいけないことを理解したんだ!でもそれでは駄目なんだ!理解してはいけないことすらも理解してはいけなかったんだ!そのことを理解してしまった僕は、もう以前のように老教授を演じることが出来ない!君にはわかるかね!」

西山の返答はなかった。
榎本は仰向けになった西山に馬乗りになり、細い首に全体重をかけていた。

「先生!なにやってるんですか!」

稽古場に飛び込んできたのは劇団事務員の林だった。
榎本は西山の首から両手を外し、ゆっくりと立ち上がった。

「また、ですか先生…」
「すまない林くん。後のことは」
「分かっています」
「林くん」
「はい」
「来月の『授業』。いい舞台になりそうだ」

榎本は再び笑い皺を深めて稽古場を後にした。
一人残された林は安堵の溜息をついた。

「もう、いいよ西山さん」

呼ばれた西山は、身軽に立ち上がった。

「大丈夫かい?首は」
「大丈夫です。だって先生、そんなに力がないんだもん」
「すまないね。こんなことをさせて」
「いえ、これで先生がスランプから抜け出せるなら、いくらでも」

劇団震源地、榎本萌主演の舞台『授業』は大好評のうちに幕を降ろした。





  続きを読む

Posted by koujun at 09:07Comments(0)

2017年03月18日

内臓が生みだす心




『内臓が生みだす心』完読。

心や精神がどこに宿るのかを解明するには、生命とは何かをまず正しく理解しなくてはならない。
さらに生命のうちでも、人間の所属する哺乳動物を含む脊椎動物の進化が、どのような法則によって起こっているのかが、はっきり分からないことには心や精神のありかなど、とうていわかるはずがない。

心は、そして精神はどこから発するのか。
それを人類の進化とともに探ってゆく本です。

心臓と肺を同時に移植されたクレア・シルビアの心がドナーの若い男性の心に替わってしまった。

メクラウナギの脳をラットに移植するとこに成功したが、ラットの行動様式はまったく変化せずに半年も平然と生き続けた。

なぜ臓器移植した女性の心が変わったのか。
なぜ異種族の脳を移植したラットはラットのままでいたのか。

結論からいえば、心は細胞に宿る。
しかも脳細胞ではない。
脳は単なる生体電気信号の受発信機で心は心臓に肺に、そして腸などの各臓器の細胞に宿る。

脳や心臓の機能を持たない動物は存在するが腸機能を持たない動物は存在しない。

脊椎動物の全ての臓器は腸から進化した。

故に心や精神の本幹は腸にある。

「不思議ですね」
女子高生の美希は顕微鏡を覗きこんで呟いた。

「そうでしょ?意思を持ってるみたいでしょう?」
研究員の大滝が得意げに言う。

美希が顕微鏡で覗き見ているものは細菌だ。
細菌がブドウ糖の粒に群がっている様子を興味深くみている。

「細菌はね、ブドウ糖のような栄養分子には近づくしフェノールのような危険物質は避ける。その現象を走化性、またはケモタキシスというんです。惹きつけられる場合を『正の走化性』と呼んで、避ける場合を『負の走化性』と呼ぶ」
「へぇ、凄いですねー」


大滝の説明に美希は感心して相槌を打つ。
美希は生物の研究者になるという、しっかりとした人生の目標を持っていた。

だから生物学の権威、琵琶バイオ大学が研究室を解放して一般向けに『生物学フォーラム』を開催し参加者の募集を出したときに迷いはなかった。

「精子が卵子に一直線に向かっていくのもケモタキシスなん」
そこまで言って大滝は言葉を呑んだ。
うわ!女子高生に精子とか言っちゃた!
と思ったのだ。

顕微鏡から片目を離さない美希は、そんなことは意に介さない。
「へぇ、そうなんですかぁ」
と感心するばかり。

一人で勝手に焦る大滝。
「こ、このケモタキシスはね、言ってみれば好きとか嫌いとかを判断している機能なんだよ。心の機能と言ってもいい。心というのは極端に言えば好きか嫌いかを決めることだと僕は思うんだ。そう言った意味で細菌にだって心はあると、僕は思うんだ」
「細菌にも心…」
このとき美希は初めて顕微鏡から片目を離した。
そして、しっかりと大滝を見つめて
「素敵ですね」
と微笑んだ。

美希と大滝の細胞が正の走化性を発現するのか。
それはまた別の話。  

Posted by koujun at 23:10Comments(0)

2017年03月05日

死の壁


『死の壁』完読。
養老孟司のベストセラー『バカの壁』の続編。

解剖学者の視点から【死】について語った本。

人間の致死率は100パーセント。
ガンの生存率が何パーセントだとかSARSの死亡率が何パーセントだとか世間では騒いでいるけど、その比ではない。

死んだら自分の死を確認することはできない。
他人の死しか認識できない。
つまり【自分の死】は存在しないに等しい。
だから自分の死について、あれこれ思い煩うことは無意味である。

中世に描かれた【九相詩絵巻】ここでは、死体が少しずつ腐っていく様、朽ち果てゆく様が極めてリアルに描かれている。

『バカの壁』を読んだときは凄く一方的な意見が鼻についた。
正論かもしれないけど極論が過ぎる気がした。

「一元論の思考がバカの壁を生む!」という決めつけからして一元論的じゃないか。
と言いたくなるくらい。

続編の『死の壁』も、相変わらず極論が見え隠れする。
けれど面白かった。

どうして『バカの壁』は鼻について『死の壁』は面白く感じたんだろう。

「日々変化する自分とは反対に、変わらないのが【情報】。情報が変化するというのは勘違い。人間は変化しつづけ情報は変わらないというのが本来の性質」

と養老先生は仰っている。
ああ、そうか。
僕の方が変わったのか。

僕の方が変わった。
君はそう言ったね。
あんなに優しかったのにどうして?って。
あんなに穏やかだったのにどうして?って。

どうして殴るの?
どうして蹴るの?
どうして首を締めるの?

そう言いたげな君の瞳は見開いたまま光を失っていった。
残念だけど僕は変わってはいないよ。
初めから、こうするつもりだったんだ。
君を、こうするつもりだったんだ。

九相詩絵巻を見たのは12歳の夏だった。
凄く蝉の鳴き声がうるさかったのを覚えている。

知っているかい?
九相詩絵巻の事を。

奈良時代に日本に伝わった仏教絵画でね。

色白で長い黒髪の女の人の死体が少しずつ腐っていく様子を描いているんだ。

亡くなったばかりの新鮮な死体の様子から始まってね。
黒ずむ皮膚の様子。
ガスが溜まって膨らむ屍肉の様子。
皮膚が破けて腐った内臓があらわになる様子。
死臭に誘われてやってきた獣に喰われる様子。
ばらばらに散った白い骨に変わり果てた様子。

そういった死体の変化を九段階に分けて描かれているんだ。

初めて九相詩絵巻を観たときの衝撃。
魂の鼓動。
君には想像できるかい?

夏が来るたびに心臓が疼くんだ。
蝉の叫びを聞くたびに疼くんだよ。

九相詩絵巻を描きたい、って。

だから君なんだ。
だって蝉が鳴いたときに君と目があったんだから。

君の死体を写真に収めてあげるよ。
変わってゆく君の姿を九枚の写真に。

僕は変わってはいはいよ。
変わるのは。
君の方だ。
  

Posted by koujun at 10:32Comments(0)

2017年03月03日

『自分の本』をつくる


『「自分の本」をつくる』完読。

十数年前、芝居の脚本を書くことになりました。

その時、手当たり次第に脚本術の本や文章術の本を買いあさりました。

今回読み終えた本も、その時期に買ったものです。

内容も確かめずに買いました。
文章読本ぽかったので買いました。

自分史の手引書でした。

自分史。

てめぇの人生を、てめぇで書いて、人様に読ませるアレです。

今となってはSNSが自分史みたいなものですね。

内容は、『原稿用紙に書けないなら、まずは白い紙に書いてみましょう』

だとか

『「。」の後には必ず改行しましょう。それで変なところがあれば後で繋げればよいのです。とにかく改行しましょう』

だとか、文章の初歩の初歩を丁寧に解説した本人です。

今の僕にはもう必要ない本。


「てめぇの人生を、てめぇで書いて、人様に読ませるなんて、そんな恥知らずなコトができるか!っんだ」

父はそう言ってはいたが、夕陽新聞自費出版サービスの折り込みチラシを丹念に読み込んでいたのを私は知っている。

「オレはね。オレは、いいって言ったんだよ。だけどね、孫達が書け書けうるさいもんだから」

父より四つ年下の重里さんが綺麗に製本された小豆色の自分史を持ってきて

「ま、暇だったら読んでよ。なんなら、まな板にしちゃってもいいから」

と言い、へへへ、と照れ笑いしながら本を置いて帰った。

その日の夜、父は夕陽新聞自費出版サービスのチラシを引っ張り出してきて、こっそり読んでいた。

来年、父は85歳になる。
記念に自分史を作ろかと本人に提案したが、そんな恥知らずな事はできないの一点張り。

だけど、本当は作りたいと思っている筈だ。
素直じゃない父の性格は娘の私がよくわかっている。

そこで私は夕陽新聞自費出版サービスに父の自分史の作製を依頼した。

もちろん父には内緒で。

ところが、自分史を創るにあたって本人へのインタビューが必要だと言われた。

「てめぇの人生を、てめぇで書いて、人様に読ませるなんて、そんな恥知らずなコトができるか!」

と言うような父だ。
インタビューに応じる訳がない。
なんとか内密に創ることはできないかと相談したところ

「異例ですが」

担当者はそう言うと本人の生まれ故郷に記者が出向いて、友人知人、親戚縁者から聞き込みをすることで客観的な自分史を創ることは可能だとの返答を得た。

もちろん、その分の費用はかかるけれども父の喜ぶ顔をみたさに私は取材を依頼をした。

一ヶ月後、担当者記者から連絡があった。

「もう本が出来たんですか?意外と早いですね」

待ち合わせ場所の喫茶店【コピアルク】でアイスコーヒーを注文したあと、私はそう言った。

「いや…それが」


長谷川と名乗った男性記者は何故か気まずそうに言った。
まだ二十代後半だろうか。
肩幅が広くてラガーマンのような体格だ。

「あの…本はまだなんですけど」
「そうですよね。いくらなんでも早すぎますよね」
「まだ取材中でして。先日、お父様の…本郷佐次郎さんの生まれ故郷である宮島県西芳群徳八村に行ってきました」
「あ、ありがとうございます。わざわざ」
「いえ。それで、佐次郎さんを良く知る人に幼い頃の佐次郎さんの話を伺ったんです」
「父を知っている人がいましたか」
「ええ、まぁ。殆んどの人が知っていました」
「へぇ、そうですか」
「報告書を起こしてお渡ししようと思いましたが、なんて言うか……。生の声を聞いてもらったほうがいいかと思って何人かにインタビューをしたので、ちょっと聴いてもらってもよろしいですか?」
「え?は、はい」

そう言うと長谷川はICレコーダーを取り出してテーブルに置いた。

ICレコーダーからは静かなノイズが流れた。
暫くして突然、しわがれた声が飛びだした。

「え?なに?佐次郎?佐次郎って本郷のか?あんた佐次郎の親戚か?ちがう?じゃあ何なんだよ?え!とにかくあの野郎には散々ひどい目に遭わされてんだよ!この村の連中ほとんどがな!とにかく酷い悪ガキでよ。人の物は平気で盗むわ、気にいらねぇ事があるとすぐ手がでるわ、挙げ句の果てに放火だ」

マイクから離れているせいか「放火?」と言う長谷川の遠い声が聞き返した。

「そおだよ。放火だよ放火。と言っても証拠はないし戦争が始まる時分だったからうやむやになったけどよ、村の半分が焼けた大火事だよ。あの後すぐに家族揃って村を出ていってな。あれは本郷の悪二郎がやったに違いないって、俺の親父がよくいってたよ。あいつは本当に酷え野郎だよ」

長谷川はICレコーダーの再生を止めると、まだ聴きますか?と聞いてきた。

「……いいえ」
言葉を失いかけていた私は、かなり間をあけてそう答えた。

「自分史の方は……?」
「中止でお願いします」

帰り道。
私は自分の心を無理矢理、整理していた。

本人だって悔いている筈だ。
だけど放火だよ!

人間、誰だって過ちは犯すものだ。
だけど放火だよ!

過去の過ちよりも、その後どう生きたかが重要だ。
だけど放火だよ!

死者は出たの?
刑事責任はあるの?
賠償保険はどうなってるの?

時間が経てば経つほど心臓がパニックする。

どうにか家に帰り着くと父が珍しく玄関に出迎えてきた。

「洋子、この前のアレだけどな。ちょっとやってみようかと思うんだが」

夕陽新聞自費出版サービスのチラシを握りしめた父はそう言った。



  

Posted by koujun at 10:21Comments(0)

2016年12月26日

説得の文章術



『説得の文章術』完読。

文章の書きかたを指南する【文章読本】には主張がそれぞれ違います。

時には相反する物もあります。

ある本は『文章は「人があまり知らない知識、知る必要がある事実」を書くことに価値がある。独りよがりではいけない(文章構成法)』と書いている。

かと思えば、ある本は『文章は、そもそも自分のために書くものだから想いのままに書きつらねるべきである(文章は写経のように書くのがいい)』とある。

べつの本には『句読点(、)はできるだけ打たない方がよい(うまい!日本語を書く12の技術)』とある。

がしかし別の本には『句点(。)ばかりではなく句読点(、)も、やや多めに書く(説得の文章術)』とくる。

それでも、どの文章読本にも絶対的に共通しているものがあります。
それは『センテンスは短く書く』

今回よんだ『説得の文章術』も例外ではありませんでした。

センテンスの短い小説のことを『ハード・ボイルド・スタイル』というそうです。
ハード・ボイルド・エッグ(固ゆで卵)のように無駄なく、ひき締まった煮詰めた文体のことです。

ハード・ボイルド・スタイルの特徴は
①センテンスは、できるだけ短く
②形容詞は、できるだけ使わない
③人間の心理を描かずに行動だけを描く

ハード・ボイルド・スタイルはテンポのよい会話、テンポのよい場面展開で格好良い文章がかけるそうです。

試してみましょう。

午前6時。
アラームが鳴る。
男は、いつものように起きる。
いつものようにカーテンを開ける。
生憎の曇天。
いつもと違うのは腹の具合だ。
だからといってトイレに行くほどでもない。
シャワーを浴びる。
朝食はとらない。
それが、男の流儀。
いつものようにスーツを着込む。
いつものように7時に家をでる。
いつもと違うのは腹の具合。
駅へ向かう人の群れ。
いつもの風景だ。
いつもと違うのは腹の調子。
男は突然コンビニに入った。
普段は素通りするコンビニに。
商品は見ない。
見るのはTOILETの表示。
先客が入っていた。
男は待った。
先客は出てこない。
男はノックをした。
先客は出てこない。
男はコンビニを出た。
喫煙所でマルボロを取り出した。
マルボロの先端が赤く灯る。
男はマルボロの煙を深く吸い込み吐き出した。
ウンコの匂いを掻きけすように。


  

Posted by koujun at 11:08Comments(0)

2016年12月12日

ストーリーメーカー



『ストーリーメーカー』完読。

「物語作成」のためのマニュアル本。

「物語」には「物語」を「物語」たらしめる内的な論理性があり、それは「物語の構造」とか「物語の文法」と呼ばれるものである。

会話が言葉の組み合わせで成り立つように、「物語」も「物語を作る最終単位」の組み合わせで作れるのではないか。

物語は機械的にシステマチックに作ることが可能である。

そういう考えに拒絶感がある人もいるでしょう。

物語を作るっていうのはそんな冷たい作業じゃない。
心の内からほとばしる情熱があるから人は感動するんだ。

そういう人には邪道な方法論かもしれません。

物語の基本構造は二つ。
「欠落の回復」パターンと「行って帰る物語」パターン。

「欠落の回復」は身体の一部の欠落や心の傷が最後に回復する物語。
ぽっかり空いた心の虚しさが最後は満たされる。そんなストーリー。

「行って帰る物語」は主人公が未知の世界に飛び込んで、そこで様々な体験を通して『精神的に大人になって』帰ってくる物語。

行って帰る物語は、【鏡の国のアリス】や【ハリーポッター】のように実際に未知なる世界に入り込むのが基本。

だけど、必ずどこかへ行かなければならない、というわけではない。

未知なる世界、つまり『知らない事を見る』行動も、ある意味「行く」ことになる。

例えば、妻の秘密の日記を見てしまう。
というように。
主人公にとって日記は非日常の世界。
その日記を読むということは「向こう側」へ行くことである。
そして、読み終えた瞬間に「こちら側」へ戻ってくる。

「欠落の回復」か「行って帰る物語」のどちらか、あるいは両方の要素があれば、それは物語である。


朝からのひどい頭痛は結局、午後になっても治らなかった。

やならければならない重要な業務だけを片付けて午後からは有給休暇をとり帰宅した。

久しぶりに明るいうちに帰宅したが、妻はいなかった。

妻の様子に違和感を覚えたのは半年前からだった。
私に内緒でコソコソと外出をしている。
そんな素振りが見え隠れしていた。

妻は浮気をしている。
疑惑は、いよいよ色濃くなった。

頭痛は薬を飲んでも一向によくならない。
少しでも痛みを沈めるために私は冷水を浴びることにした。

妻の鏡台を横切ったとき薄桃色の本が目に止まった。
妻の日記だった。
丁寧に装丁された鍵付きの日記だった。
手に取ると、ずっしりと重かった。
そして、その日記の鍵は外れていた。

しばらく日記を見詰めて、私は日記を元に戻した。
浮気をしているかも知れない妻。
その答えは、この日記を中にあるかも知れない。
だからと言って、人の日記を盗み見てよい道理はない。
鍵が外れた鍵付きの日記。
私は見なかったことにして浴室に急いだ。

とにかく頭痛をなんとかしたかった。

冷水シャワーを浴びながらも脳裏に日記がちらついた。
見なかったことにした日記が。

シャワーを終えて、再び妻の鏡台を横切る。
そして目に止まるのは、あの日記。

そっと日記に触れた。
そっと日記を持ち上げた。
やはりずっしりと重い。
固い表紙を開いた。
最後のページ、つまり今日の日付までめくった。

12月12日。

早く旦那さんにも知らせた方がいい。
昨日、先生に言われた事が頭から離れない。
なんて言おう。
なんて話そう。
末期の乳癌。
あの人はきっと、取り乱すにちがいない。
今日の検診の結果で決めよう。

ごめんね。
あたしがんになっちゃたよ。


そっと日記を閉じた。
癌に。
妻が癌に。
身体が震えた。
抑えきれないほど震えた。

そして自然に笑みがこぼれた。

そうか、あいつは癌になったのか。

いつの間にか頭痛は治っていた。












  

Posted by koujun at 11:33Comments(0)

2016年12月07日

頭のいい説明がすぐできるコツ


『頭のいい説明「すぐできる」コツ』完読。

能力はあっても説明が下手だと評価が下がる。

現代は「説明能力」がそのまま「仕事の能力」として評価されることが多い。

能力が高いから説明が上手いのか。
説明が上手いと能力が高くなるのか。

本書では【説明】を「伝わる」ことを目標とせずに「結果を出す」ことを目標としています。

説明によって相手の行動を促して成果につなげる。

まずは結論から先に言いなさい。
細かな情報は後回しにすること。

一方的に喋らず、相手が理解しているかを確認しながら話しなさい。

人間は感情の動物。
正論だけでは動かないことを知りなさい。

人間は信頼していない者の意見は聞き入れない。
なので日頃の人間関係を円滑にしなさい。

などのテクニック論からコミュニケーション法まで様々な角度から【説明】を解説しています。


社長や上司など、時間が作れないくらい忙しい人がエレベーターに乗っている、わずかな時間で自分の提案を伝える。

これをビジネスの世界ではエレベーターピッチというそうです。

1分にも満たない時間で提案を要約する。

エレベーターピッチの利点は、提案だけ伝えて返答は聞かない。
というか聞けない点。

そうすれば後日、話ができる口実が作れる。

もう一つは、話した後で気不味くなると予想できる時。

エレベーターが開くまでしか時間がないので、言い終わったら直ぐに出て行ける。
居た堪れない気持ちを我慢することもない。


エレベーターピッチは相手に、何かしらの印象を与えるには最良の方法だ。
俺が住んでいるアパートの7階から1階までは46秒かかる。
扉が閉まってから開くまでなら49秒だ。

俺は今日、この49秒に全てをかける。

彼女を初めて見たのは桜の蕾がポツポツと付始めたころだった。
ちょうど俺の部屋の真下に引っ越してきたのだ。
その日、俺はベランダで煙草を吸っていた。
すると下の階からパンパンと布団を叩く音が聞こえてきた。

何気に身を乗り出して視線を下ろすと細くて白くて綺麗な腕が見えた。
その腕が布団を叩いていたのだ。

7階からエレベーターに乗ってきた彼女を初めて見たのは桜の蕾が芽吹いた頃だった。

彼女が昇降函に入った瞬間、無機質な匂いは鮮やかな薄桃色に染まった。
その薄桃色の匂いは、俺の肺を、俺の心臓を、俺の脳味噌を甘酸っぱい気持ちで満たした。

四六時中、何をしていても目蓋に映るのは、あの子の笑顔。
四六時中、何をしていても耳に残るのは、あの子の歌声。

話しかけてみよう。
そう決意したのは桜の花が満開になった頃だった。

エレベーターピッチは相手に、何かしらの印象を与えるには最良の方法だ。
俺が住んでいるアパートの7階から1階までは46秒かかる。
扉が閉まってから開くまでなら49秒だ。

俺は今日、この49秒に全てをかける

俺はいつもの時間に、いつものようにエレベーターに乗った。
いつものように扉が閉まり、いつものように静かにゆっくりとエレベーターは降りてゆく。

いつもと違うのは胸の高鳴りだけだ。

そして7階。
エレベーターは止まり、扉が開いた。
狙い通り、彼女が乗ってきた。

俺は早まる心拍数を抑えつつ話しかけた。

「あの」

が、先に声をかけて来たのは彼女だった。

「あの、もうヤメてもらえませんか?私の後をつけるのは。それからドローンを使ってベランダから覗くのもヤメて下さい。この前、私の部屋を覗くドローンと同じドローンを持っていたのを公園で見ました!マジキモいんだけど。それから1階エレベーターホールでの待ち伏せもヤメて下さい。このカス野郎が!!」

言い終わると、ちょうど扉が開き彼女は颯爽と出て行った。
見事な、実に見事なエレベーターピッチだった。
  

Posted by koujun at 11:17Comments(0)

2016年12月01日

頭の体操 第11集


『頭の体操 第11集』完読。
全81問中、解ったのは43問。
正解率53%。
7割は行きたかった。

こんな問題がありました。

Q「ヒロシ君は赤と青の二つの貯金箱を持っている。ある日、中に入っているお金を母親に見せると「赤い貯金箱の方が10円多いわね」と言われた。ところが一週間して再び母親に見せると、今度は「青い貯金箱が5円多いわね」と言われた。この一週間、貯金箱のお金は使ってないし、貯金もしていない。もちろん硬貨の数も変わらない。この状況を説明しなさい」
A「貯金箱の中に外国の通貨が混じっていたから。為替の変動により、貯金の額が変わったのである」

こんな問題もありました。

Q「現在Y町にいる秘密諜報部員の00Xは重要書類を二時間以内にY町からZ町まで運ぶようにと指令を受けた。Y町からZ町までは、どんなに急いでも人の足では三時間はかかる。車を使えば30分で行けるのだが、三台ある車には、どれも故障した部分がある。最初の車はブレーキがきかない、次の車はハンドルが右にも左にもきれない。最後の車はいつ動かなくなるかわからない。ガソリンはどの車にもちょうど往復できる分だけ給油してある。00Xがうまく任務をやりとげるにはどうしたらいいだろうか」

通学途中でバスを待っている間の暇を潰すにはクイズが最適だ。
僕は転校してきたばかりの相葉君に問題を出した。
うまく引っかかってくれるかという期待を込めて。

「諜報部員?それはCIAかい?それともMI6?まさかISISじゃないだろうね?」

普段は無口な相葉君が、やや早口で捲し立てた。
あまりの勢いで眼鏡が少しズレ落ちている。

「そんなんじゃないよ」
「それは良かった。諜報部員ともあろう者が、ブレーキやハンドルが効かない車を所持している筈がない。もし、その諜報部員が我々の」

一瞬、相葉君の眼鏡の奥の瞳が鋭く光ったように見えた。
ズレ落ちてた眼鏡をもとに直した相葉くんは、普段の落ち着いた低めの口調に戻って、答えはなに?と聞いてきた。

「え?もう答?もうちょっと考えなよ。まぁ、いいや。答えはね、ブレーキが故障した車を使う。だよ」
「なぜ?」
「ブレーキが故障した車のガソリンを半分抜き取るのさ。ガソリンはちょうど往復できる量だけ入っている訳だから、目的地に着いたときには車は止まっているというわけ」
「そんなバカな!」

伏せ目がちだった相葉君は物凄い勢いで僕を見た。
眼鏡は相葉くんはの鼻から離れ、フレームが右耳にかろうじて引っかかった状態で揺れている。

「じゃあ、信号はどうするんだ!止まらないのか!信号無視をしろと言うのか!もし、そんなことをして警察に見つかったらどうする!諜報部員活動というのは隠密にしなければならないんだ!テレビや映画じゃあるまいし諜報部員が派手に活動してどうする!いかなる場合でも我々は」

そこまで言って、あからさまにシマッタ顔をした相葉君は、ゆっくりと眼鏡を直して

「あ、飛行機雲」

と空を見た。

間違いない。
相葉君はあの組織の諜報部員だ。
しかし、何故あの組織が僕の学校に。
引き続き調査が必要だ。
相葉君は、まだ僕の正体に気づいていない。

それにしても見事に引っかかってくれた。

詰めが甘い。
詰めが甘いよ相葉くん。  

Posted by koujun at 11:23Comments(0)

2016年11月25日

30代から始める「頭」のいい勉強中


『30代から始める「頭」のいい勉強術』完読。

「30代こそ勉強に最適な時期」という仮説を胸に秘めた著者が、30代のための勉強術と、知的アウトプットをどうやって効果的に生み出すか、その理論と技術を紹介した本。

なぜ30代が勉強に最適な時期なのかは不明。
勉強は早ければ早いに越したことはないし、遅くから始めても手遅れと云うことはない。

と思うんだけど。

書いている内容は的を得ています。

5、6年前、僕が30代のころに買った本。
久々に読みました。
この本に書いている事は殆んど忘れていたけれど、唯一続けていたことがありました。

それは【「本は一冊六章」読むよりも「三冊を二章ずつ読め】

二章ずつではないけれど僕は本を三冊、輪番で読んでいます。
読み飽きたら次の本。
これも飽きたら次の本。

飽きっぽい僕にはピッタリの読み方。
一冊じっくり読むよりも早く読み終えます。

その他にも、時間が限られている大人の勉強術があれこれ紹介されています。

「2時間続けて記憶するよりも、1時間ずつ2回に分けて記憶したほうが効率は上がる。なぜなら次々と新しい情報を脳に送ると前に記憶した情報が上書きされて消えちゃうんだ。ちゃんと記憶が脳に定着する時間も作らないといけない」

俊徳叔父さんはそう言った。

叔父さんはボクらの親戚の中で浮いた存在だった。
なにせ去年までニートだったのだから。

「今のうちに遊んでおけよ。勉強なんてものはな、30歳を過ぎてからでも遅くないんだからな」

その言葉には確かに説得力があった。

俊徳叔父さんは沢山の資格を持っている。

公認会計士。
司法書士。
画像処理エンジニア二級。
神社検定。
年金アドバイザー。
エトセトラエトセトラ。

どれも30歳を過ぎてから突然、勉強を始めて手に入れたものばかりだ。

「一つの専門分野なら400時間勉強すればマスターできる。週に5日、やく3時間ずつ半年勉強したら、どんな分野でも知識だけはプロになれるんだ」

おばあちゃんの三回忌の法要の為に親戚縁者が徳島の山村に集まった。
そこで、久しぶりに俊徳叔父さんにあったのだ。

「いいか。参考書や入門書は二冊買うんだ。一冊は薄くて分かり易い本。もう一冊は分厚い本。薄い本で、今から学習する分野の全体を把握する。何度も薄い本を読み返す。そして理解出来たら、分厚いので深く掘り下げる。理解せずに、ただ闇雲に記憶しても、役には立たないからな」

アマチュア無線技士。
精神対話士。
ブライダルプランナー。
古民家鑑定士。
空気ソムリエ。
エトセトラエトセトラ。

数々の資格を持っている俊徳叔父さんも今年で35歳。

ニートとは15歳から34歳までの非労働者のことなんだって。

去年までニートをしていた俊徳叔父さんは、今年から無職をしている。
  

Posted by koujun at 11:27Comments(0)

2016年11月22日

コンフォートゾーンの作り方




『コンフォートゾーンの作り方』完読。

コンフォートゾーンとはセルフ・イメージによって決められた、その人にとって心地が良い領域のこと。
人はコンフォートゾーンから外れると、居心地が悪くなって元に戻ろうとする。

年収が500万の人はコンフォートゾーンが500万円にある。
コンフォートゾーンを1億に持っていけば年収1億円になることも可能。

冒頭から金銭至上主義的で気に食わない。
と思ったけど、それはコンフォートゾーンを分かり易く説明する為の方便。

とにかく目標は高く設定しなさい。
現状と理想に隔たりが在れば在るほど、その目標を達成する為のアイデアが出てくる。

その高く設定したゴールをリアルにイメージしなさい。
コンフォートゾーンは、より臨場感のある方を選択する。
現状よりも理想の方がリアルになればコンフォートゾーンは理想にシフトする。
理想がコンフォートゾーンになれば、現状の居心地が悪くなる。
すると習慣が変わり思考が変わる。
そこから現状打破のアイデアが生まれる。

高く目標を持つと必ず否定する者=ドリームキラーが現れる。
決して否定的な助言は聞いてはならない。

人は過去をコントロールする事は出来ない。
現在も、過去の選択の結果でありコントロール不能。
人がコントロールできるのは未来しかない。
未来は、いくらでもイメージすることができる。
好きなようにコントロールすることができる。

なので、高い目標を設定すべきである。

「高い目標かぁ」
読み終えて、白幡誠治は呟いた。
高い目標と言ってもねぇ。
無理しないで入れる程度の大学に何となく入って、何となくバイトして、何となく日々を生きている誠治にとって
「そんな事いわれてもピンとこねぇ」
のだ。

【コンフォートゾーンの作り方】の著書、苫米地英人は本の中で『私の最終目標は世界平和』と書いている。
誠治は、鼻で嗤いつつ
「だったら俺も世界平和を人生の目標にすっかなー」
などと軽々しく思う。

目標が決まれば後は強烈なイメージだ。
自分が世界平和に貢献したという鮮烈な暗示。
暗示というより妄想だよな。
と思いつつ誠治は未来の記憶を作り始めた。

何をしたのかは知らないが、とにかく世界中の人から讃えられている自分。
そんな未来のイメージを抱き続けた。

「私は画期的なシステムを作って平和な世界になった!やったー!」

というアファメーションを作って毎日毎日呟いた。

アファメーションを作るのも色々とルールがある。
曰く、一人称であること。
曰く、達成している内容にすること。
曰く、感情を伴う言葉にすること。
曰く、秘密にすること。

などなど11個もある。

こんな事したって変わるわきゃないよ。
馬鹿げてるよなぁ。

と思いつつ律儀にルール通りにアファメーションを作って唱える誠治。

日々、世界平和について考えているうちに戦争について誠治は知りたくなった。

今まで何となく生きてきた誠治は、何となく戦争について調べ始めた。
戦争を調べれば宗教を調べなければならない。
戦争の陰には必ず宗教があるからだ。
宗教を調べれば哲学に行き着く。

半年もすると、誠治は本気で世界平和を考え始めていた。

本気で世界平和を為し得ようとするならば財力が必要だという事に気付く。

しかし、何となくバイトをして生きている男に世界を平和に出来るほどの財力はない。

「クラウドファンディングかぁ」

世界平和を志して9ヶ月たったある日、誠治は突然思い付いた。

クリエイターや起業家が自分の夢を叶えるために不特定多数がらネットで資金を調達するクラウドファンディング。

そのシステムを利用して世界平和の為の資金を集めようと思い立ったのだ。

「いやいや、そんな事で資金が」
と一瞬、否定的な気持ちになったが、自分がドリームキラーになってどうする!と思いとどまった。

誠治はパソコンの前に座った。
クラウドファンディングのサイトを開く。
必要事項を書き入れた。
そして目的の欄に
『世界平和のために』
とだけ書いて全世界に資金を要請した。

その5ヶ月後に有名アーティストが賛同して一気に注目を集める。
2年後には『世界平和財団』を立ち上げる。
財団の目的は世界平和に関するアイデアを募集して審査が通れば『世界平和財団』が金銭的政治的なバックアップをすること。

さらにそれから7ヶ月後に「説教するゾ!」のギャグで大ブレイクした破天荒型芸人がイスラム過激派組織の中ISILに乗り込んで兵士達を笑わせてくる。
と云うとんでもない企画を後押しし見事成功させ、ISILを一部撤退させる。

21年後にはノーベル平和賞を受賞し、世界中の人から讃えらる。

そんな未来が待っている事を白幡誠治は知らずにパソコンに前に座っている。
今から現実になる未来を強烈にイメージしながら。
  

Posted by koujun at 11:32Comments(0)

2016年11月19日

応用倫理学のすすめ


『応用倫理学のすすめ』完読。

倫理学は、善いか、悪いかという判断の根拠となる原則を研究する学問。

「他人に迷惑をかけない限り何をしてもいい権利」(自己決定権)によって個人の権利は守られている。

しかし、ポルノグラフティー、代理母、自殺等に関して、個人が他人に迷惑をかけないとしても、社会の側が干渉したり、個人の自己決定権を制限するのは何故か?

はたまた死刑は、廃止すべきか存続すべきか。
「死刑廃止は今では世界的な傾向だ。先進国で廃止に踏み切っていないのはアメリカの約40州と日本だけだ」
という。

死刑廃止論は冤罪問題を根拠にしている。
判決の間違う可能性がゼロにならない限り、死刑はゼロにすべきという主張。
死んでしまった後で冤罪が発覚したら取り返しがつかない。

一方で死刑存続には二つの理由がある。

ひとつは「つぐない論」
殺人を犯したものが死刑になったところで被害者の命は戻らない。
しかし、被害者遺族の感情をなだめることができる。
これに対して死刑廃止論者は、復讐心を充たすという低俗な意味しかないと批判する。

もうひとつは「みせしめ論」
死刑制度を設けることで、未来の凶悪犯の増加を抑止するという主張。

だけど、そういう主張はマトモな人間には通用するが、俺みたいなマトモじゃない人間には糞程も意味はない。

今日、俺は死刑で死ぬ。
罪状は三件の殺人と五件の放火だ。
もともと死刑になることが目的だったから、あっさりと捕まった。
いや、捕まってやった。
俺は罪を認めているし、ハッキリと死刑を望む事を明言しているのに、死刑判決から執行まで13ヶ月もかかった。それでも早い方らしい。
どうして死刑で死ぬ為に罪を犯したのか?自殺ではダメだったのか?その事は裁判でさんざん話したからここでは言うつもりは無い。
ただ、そうしたかったから。
それだけの理由だ。

「時間だ。出ろ」

俺は看守の指示に従い牢屋から出た。
今まで色んな所で寝起きしてきたが、ここが一番落ち着けた場所だった。
結局、俺は生まれながらの犯罪者だったわけだ。
三人の看守にガードされて、俺は絞首台に上がった。
そこには一本の太いワッカ状のロープが垂れ下がっていた。
今からそのロープに頸をかけ、吊り落とされて俺は死ぬ。
俺みたいな頭のおかしい人間に死刑制度は通用しない。

「前に出ろ」

俺は看守の指示に従い、一歩前に出た。
目の前に首吊りのロープがぶら下がっている。看守は俺の頭に黒い布袋か被せた。
そしてその上からロープを通し、俺の頸を軽く締めた。
いよいよだ。 
今から床が落とし穴のように開き、頸を吊られたまま俺はブラブラと揺れて、この世とオサラバ出来る。
さぁ、早く落とせ。さぁ、さぁ、さぁ!

「10分経過。絞首刑終了しました」

え?何を言ってるんだ?俺は黒い布袋を被ってロープを頸に通されただけで、その場に10分も立っていた。
やがてロープが外され、黒い布袋も脱がされた

「間宮正平は本日を持って死亡。貴様はこれより国有財産番号4736号だ」
「何?どういう事?」
「もう貴様には人権は無い。これより貴様は物として扱う。国家の財産の一部になった」
「え?何?何なの?死刑は?」

意味が分からず混乱する俺の耳元で、死刑執行人はこう呟いた。

「まだ、わかんねぇのか。死刑で死んだのはお前の人権だよ。戸籍上、お前はもう死んだ。肉体は国家財産として国が没収したんだよ。今からお前は人体実験に使われる。医学の発展の為に」

「人体実験?」

「簡単に死ねると思うなよ。それがお前の償いだ。・・・本日の死刑執行、これにて終了」
     

Posted by koujun at 11:37Comments(0)

2016年11月07日

小さなお店をつくって成功する法




『小さなお店をつくって成功する法』完読。

個人経営の小さなお店の作り方。

開業準備から内装工事、商品構成、税務申告まで細かなノウハウを伝授。

【アップルハウス】を全国展開するオーナーが成功経験、失敗経験を織り交ぜて教える開店開業の秘訣。

『売上目標は(維持費+生活費+家賃)÷粗利益』で算出。
と具体的な指南もあるし

『「おいしくない」「可愛くない」「雰囲気が今ひとつ」と言うだけの批評家は、店のオーナーにはなれない。もっとおいしく、もっとステキに、どうしたらできるだろう、なれるだろうと、そこまで考えて実行に移せる人だけがオーナーになれる』
と言う経営哲学的な事も書いています。

読み通して思ったことは、経営者は気苦労が絶えないなぁ。
って事。

従業員一人ひとりの能力や進退に気をもみ。
日々の売上に一喜一憂し。
税金や保険などの申請業務をこなし。

たとえ個人であっても経営者ってすごいよなぁ。

私には無理。


私には無理だ。
何度もそう思って、何度も心が折れる音を聞いた。
それでも今日までやってこれたのは素敵なお客様の笑顔と、その笑顔を引き出してきた素敵な従業員のお陰だと思っている。

18年前に単身で行ったイギリス旅行。
そこで可愛い妖精の置物に出逢った。
その一年後には妖精小物専門店『ピクシーホッパー』を開業していた。
ほんの出来心。
趣味から始めたお店だった。

お店は思いのほか順調で3年後には2店舗、5年後には一気に4店舗に増えていた。

三坂涼子に出逢ったのはその4店舗目、笹身町本田店だった。
オープニングスタッフとしてやってきた彼女はパツンと揃えた前髪と縁のしっかりとした眼鏡が印象的な可愛らしい女性だった。
高校を卒業したばかりで勉学の道には進まずに、商売の道に進んだ少女だった。

落ち着いた物言い、おっとりした雰囲気、妙に間のズレる会話のテンポ。
そういった一つ一つの印象から引っ込み事案な性格だと思い込んでいた私の見立ては大いに外れた。

引っ込み事案どころか、かなり強引な接客だった。
店の前でディスプレイを眺めているだけの通行人に対しても積極的に声をかけ、いつの間にか店内に引き摺り込む。

引き摺り込まれたお客様の殆んどがピクシーホッパーのロゴ入り紙袋を提げて帰っていった。

落ち着いた物言い、おっとりした雰囲気、妙に間のズレる会話のテンポが強引なやり口を完璧に緩和していた。

彼女にはファンも多かった。
彼女との会話を楽しむだけに来店するお客様も少なくは無かった。

接客とは商品だけを売る事じゃない。
商品と一緒に自分も売り込むことだ。
私はその事を彼女から学んだ。

そんな彼女と出逢って13年になる。
今では8店舗目の本郷塩見店の店長だ。

「どう?順調?」

ピクシーホッパーは全部で16店舗ある。
私は一月に一度は必ず全店舗を回る事を心掛けている。

「順調ですよ」

本郷塩見店店長の涼子は、飛び切りの笑顔でオーナーである私を迎える。
まるでお客様扱いだ。
新婚家庭に訪れた姑のような気分。
「もう、私たちだけで大丈夫ですよ。心配なさらずに」
そう言われているようで10分と居れない。
私のお店なのに、私の居場所がない。

店長はオーナーである私にお茶の一つも出さない。
でもそれは私の経営方針に従った結果だ。

私は自分のお店にテーブルや椅子は置かない。
座って談話ができる空間は作らない。
ときどき小さな雑貨屋なのに所狭しと談話スペースを確保しているのを見かける。
そういう店に入った時、その店のオーナーが自分の友達なのか上得意客なのかは知らないが、ふたりで話に花を咲かしている場に遭遇することがある。
うんざりする瞬間だ。

お店の人はもちろんお喋りを中断して笑顔で接客してはくる。
でも、その笑顔の奥には、とっとと帰って欲しいと言う切望が見え隠れする。
早くお喋りに戻りたいんだと言う渇望が漏れている。

お店の主人公はオーナーではない。
素敵でお洒落な商品達でも、ましてやカリスマ店員でもない。
お客様だ。
お客様が主人公なのだ。
その事に気付かないオーナーは平気で店内でハーブティーを飲み、平気でお菓子を頬張る。

私のお店では飲食は絶対禁止なのだ。


私は他店の情報交換や新人従業員の話などを簡単にして、直ぐに店を出た。

私自身も実は暇ではない。
これから事務所に帰って雇用保険の申請やら賞与資金の調達やら、やらなければならない雑務は山ほどある。
オーナーの仕事の殆んどは雑用雑務と言っても過言ではない。

私がお店を切り盛りしていたのは3店舗目の栄町三島店が最後だった。
その栄町三島店も店長を他にたてた。
以来すべての店舗の管理運営は私以外の人が行っている。
接客から離れて10年は過ぎた。

最近、ふと、あの頃が懐かしく想う。
お客様との会話のやり取り。
店内ディスプレイをあれこれ思案する時間。
希望と野望と夢と、そして不安が入り混じった日々。
もう、戻れることはないあの日々。

今の私にあるのはオーナーとしての孤独な責任感だけだ。

「オーナーーー!」

ピクシーホッパー本郷塩見店を出て数分後、ふいに私は呼び止められた。
振り返ると店長の涼子だった。

パツンと切り揃えられていた前髪はナチュラルな斜め分けに変わり、縁の太い眼鏡はコンタクトレンズに変わってはいたが、笑顔だけはあの時のままだった。

「これ、事務所で飲んで下さい」

涼子が手渡したのは、薄いオレンジ色の筒状の紙箱だった。

「この前、可愛いハーブティーの専門店を見つけて。すっごく美味しかったからオーナーにもって。10種類、いろんなハーブティーの詰め合わせです。事務所で飲んで下さい。ほら、お店じゃ飲めないから」

屈託のない笑顔を私の角膜に焼き付けて、涼子は自分の店に戻っていった。

うん。
ひとりじゃない。
うん。
がんばろう。

私は走り去っていく涼子の後ろ姿を見ながら、そう呟いた。

  

Posted by koujun at 11:42Comments(0)

2016年10月25日

裏のハローワーク



『裏のハローワーク』完読。

運び屋、鍵師、総会屋。
マリファナ栽培、ヤミ金融。

裏の世界の色んなお仕事。

不法投棄の作業をするのは土日と決まってる。
何故なら環境管理事務所が土日は休みだから。

ヤミ金なんてタネ銭と度胸があれば誰でも始められる。
タネ銭がなければ元締から借りればいい。
トイチで借りてトサンで貸して。
取立てながら取立てられる。
恐るべし畜生道。

借金のカタにマグロ漁船に乗り込むというのは昔の話。
それでも稀に人生どん詰まりの人が職を求めてくるという。
そんな人間でも船に乗ると真面目に働くようなる。
働かざるを得ない。
航海が終わって船から下りるときは立派になる人も多いとか。
マグロ漁船は人生の再生工場という側面もある。

2022年。
政府は圧迫した財政を抜本的に改革する為に大胆な政策に打って出た。

その一つが『一部公務所の国営企業化法案』である。
一部公務所とは、言を濁してはいるが刑務所の事だ。
刑務所を国が運営する企業にしてしまおう。
という法案である。
もっと平たく言えば、囚人に対して
「手前ぇらの飯のタネは手前ぇらで稼げ。手前ぇらを監視する看守達の給料も手前ぇらで稼げ」
という事だ。

一部の刑事施設に補填する国家予算、つまり国税を廃止する。
さらに国営企業にすることにより、その収入を国家予算の歳入に加えよう、という魂胆である。

この法案により、各刑務所は独自の企業展開を余儀無くされた。

近畿地方のある刑務所は家具ブランド【SYUJIN】を立ち上げた。

中部地方のある刑務所は、お茶の業界に参入した。

東北地方のある刑務所はマグロ漁に活路を開こうとしていた。

「マグロ漁船は人生の再生工場という側面もあるのである!」

マグロ漁歴35年のベテラン漁師、笹山勝男は怒りを込めて叫んだ。
刑務所内の会議室は声がよく響いた。
けして広くはない会議室には勝男の他に8人の囚人がパイプ椅子に座っている。
壁際には5人の看守が仁王立ち。

勝男は囚人番号204を睨んだ。

「カツオがマグロを釣るのかよ」
という声が聞こえたからだ。

漁師の家に生まれた勝男は、さんざん自身の名前をからかわれてきた。
五十代になってからは、流石に名前をおちょくられる事はなかった。
それが、久しぶりに嘲笑らわれて、つい頭にきてしまったのだ。

「カツオがマグロを釣るのかよ」
そう言ったのは囚人番号204、安西貞夫である。
常習賭博と大麻所持で捕まった男だ。
「あ?やんのか?」
勝男に睨まれた安西が立ち上がろうとした瞬間

「辞めとけ、サダ」
恐喝罪及び傷害罪を犯した、囚人番号195、西岡博治が制した。
総会屋をしていた西岡の声には圧力があった。
深く低く地の底から響いてくるような、そんな声だった。

「なぁ、勝男さん。俺たちは来月にゃ、マグロ漁船の上だ。そこじゃあ、アンタが大将かもしれない。だけどな、ここじゃあアンタは何者でもねぇんだよ。そんな態度でそいつらを、いや、俺らを纏められるのか?」

笹山勝男はマグロ漁船乗組員の講師としてこの刑務所に招かれたのだ。

ずぶな素人を、いきなり漁船に乗せるわけにはいかない。
一ヶ月間、みっちりと実演と知識を叩きこむ。
マグロを追うのはそれからである。

「腕を出せや、木偶の坊」
そう言うと勝男は演台の上に広げていたプリントを振り払った。
勝男自身が一週間かけて作った手書きの資料だった。
そして勝男は太い腕を曲げて肘を台に置いた。
腕相撲の体勢である。

纏まるか纏まらないか。
それはこの腕一本が決める。

それを見て西岡博治は低く喉の奥で笑った。
立ち上がった西岡の囚人服の袖から伸びた腕は勝男の丸太腕にも勝るとも劣らない太さだった。

周りの囚人達がざわめいた。

罪を犯した八人の男達と、海を生きる四人の男の葛藤と軋轢と本当の友情。
広大な太平洋を舞台に振り広げられる本格海洋冒険劇!
迫り来る颱風18号!謎めいた孤島!襲いくる白鯨!

果たして、十二人の漢達は生きて帰れるのか!
  

Posted by koujun at 10:12Comments(0)